3月22日(現地時間)、2023年秋冬台北ファッションウィークが盛大に幕を開けた。
開幕ショーが行われた会場は、台南市北門区に位置し、台湾で最大規模を誇る「王爺廟」として300年以上の歴史を持つ「南鯤鯓代天府(なんこんしんだいてんふ)」寺院だ。台南の夜の穏やかな静けさの中に、ライトアップされた南鯤鯓代天府が優美にそびえ立ち、そのコントラストが会場の熱気とともにこれから始まるショーへの期待を高めてくれた。
文化とファッションが融合した開幕ショー
台北ファッションウィークは2018年から始まり、毎シーズン異なるテーマに基づき開幕ショーが行わているが、今回の開幕ショーでは『台湾の伝統芸能、伝統工芸』をテーマとし、ファッションデザイナーたちが台湾に継承される文化を融合させた斬新なデザインを披露した。
文化大臣の史哲氏は、「100年以上受け継がれてきた台湾の伝統芸術と文化を現代のファッションと融合することで、台湾の文化コンテンツを世界に発信することができ、台湾デザイナーの服が一般大衆の生活圏にも浸透していくことを期待しています」と述べた。
また開幕ショーでは、EXILEのAKIRAがVIPゲストとして登場した。AKIRAは台湾のトップ女優、モデルのリン・チーリン(林 志玲)と2011年の舞台「レッドクリフ~愛~」での共演をきっかけに知り合い、2019年6月に結婚している。
オープニング時の挨拶でAKIRAは、「日本の京都の清水寺などの歴史的建造物でイベントなどを行うことがありますが、台南でこのようなイベントに参加するのは初めてなので、圧巻です。」とその規模の壮大さを称嘆。
その後行われたメディアインタビューでも、「このようなイベントに参加することが出来、とても新鮮な気持ちですし、(台南は)僕の妻の故郷なので、僕にとっても第二の故郷のような場所です。」と今回の台南の舞台が特別な場所である事を改めて伝えた。
開幕ショーでは、伝統的な獅子舞パフォーマンスと伝統音楽をミックスした現代エレクトロニック音楽をBGMに、7名のファッションデザイナーと7名の伝統芸術の職人がそれぞれ10着の作品を発表。
最初に登場したのは、舞台衣装や高級オーダーメイドを得意とするデザイナーBOB JIAN(ボブ ジアン)と、台湾民俗芸能演舞「八家将」のパフォーマンスグループ「吳敬堂芸陣社」のコラボレーションだ。
ショーの前半では、伝統的な八家将による迫力ある踊りとパフォーマンスが繰り広げられ、後半ではモデルたちがパフォーマーたちの舞いの中を颯爽と歩き、コレクションを披露した。黄色と黒のタイガー柄に赤を差し色に取り入れたスーツや、オーバーサイズの鎧のようなショルダーの白いブレザーに、前面部の中心が前開きになっている 2層の黒いレイヤースカートを合わせたドレス、孔雀の羽のような模様の生地にスパンコールのフリンジを付けた真っ青なアシメントリーのコートなどが登場。1着ずつのデザインは全く異なるものだったが、それぞれが八家将のコスチュームから着想を得たであろうアバンギャルドで、近未来感のあるものだ。それに加えて、コレクションのいくつかのルックでは、八家将がパフォーマンスで頭につける2つの長い触覚のような「神冠」に、カラフルなポンポンをつけた装飾が頭に付けられ、それがより一層、台湾の伝統芸能とのコラボレーション「らしさ」を引き出していた。
WEI TZU-YUAN(ウェイ ツー ユアン)は、中華結びアートの陳夏生氏と連携した作品を発表。コレクションでは、ピンク、オレンジ、グリーン、パープルなどの蛍光色の紐がふんだんに使用され、たくさんのカラーが一つの衣装に詰め込まれていた。これらの編み込まれている紐はリサイクルされたペットボトルで作られており、サステイナブルへの配慮もされている。紐を線状に付けたり、編み込むことで、一つ一つの衣装にアクセントが生まれ、霊格かつ幻想的な世界感を作り出していた。
無形文化財にも登録されている影絵劇団「東華皮影戲団」とTANG TSUNG CHIEN(タン ツォン チエン)によるショーは、会場に突如現れたトラックの中での影絵パフォーマンスから始まった。劇のテーマは西遊記から着想を得たシリーズだという。コレクションでは、スカート部分を立体的にし、ドレス全体に80年前の文字を描いたものや、劇に登場するキャラクターが描かれたフォーマルなスーツ、劇の色彩や彫刻技術を落し仕込んだ鮮やかなルックが並んだ。
そして今回の目玉とされていたのが、JUST IN XX(ジャスティン XX)と伝統建築の外壁アート職人で人間国宝の莊武男氏のコラボレーションである。JUST IN XXは、過去にニューヨークファッションウィークへの出場経験や、NIKEやコンバースとのコラボレーション、2021東京五輪の台湾代表公式ユニフォームのデザインを手がけるなどの実績を持つ実力派ブランドとして知られており、この日は台湾の頼清徳副総統や、ゲストで登場したEXILEのAKIRAも同ブランドの衣装を着用し、出席した。
ブランドのクリエイティブディレクター、周裕穎(ヂョウ・ユーイン)氏は、 今回の莊武男氏とのコラボレーションの着想を「スカイランタンを崇拝するために寺院に行き、偶然に神に取り憑かれた中学生グループの幻想体験」だと語る。 学生時代の廟での経験からインスピレーションを得て、学生服と寺院のアート要素を取り入れたストリートパンクなコレクションに仕上げたそうだ。ユニフォームシャツ、ランタンスカート、スポーツシャツ、ベースボールジャケットなどの学生ルックに、神様やドラゴン、タイガー、ひょうたんといった寺院の絵をモチーフに加え、さらに漫画のスクリーントーン、放射線模様、波、チェッカーボードパターンなどティーンエイジャーが好む要素を組み合わせており、スカイランタンと寺院の建築を融合させた、独特で優美なデザインが表現されていた。
また、ショーの後半では、寺院ならではの伝統を感じさせるプリントや装飾がなされた巨大なガウンを纏い、モデル達が大きく手を広げ歩く。その光景はまるで、鳥が大空を飛んでいるようにも、スカイランタンが大空に浮かぶシーンにも見えた。
YEN LINE(ヤン リン)と紙細工職人 陳一中氏の作品は、紙の彫刻とファッションデザインをクロスオーバーだ。紙、ホビーナイフ、布、ハサミという素材と道具を駆使し、ドラゴンのイメージを模倣したコレクションを発表。紙の彫刻が引き立つようなシアー素材やフリルのレイヤーが多く目立ち、民俗衣装のアイコンとされる「ドラゴン」を全く新しい解釈として表現していた。
「織物の女王」と呼ばれるGIOIA PAN(ジョイア パン)と、歌仔戲(台湾オペラ)団体「唐美雲歌仔戲」がコラボレーションしたショーでは、再度巨大なトラックが広場に現れ、トラックの車体の両面が開き、「唐美雲歌仔戲」による台湾オペラが始まった。台湾オペラの後半差し掛かると、パフォーマンスの間横に並んでいたモデル達が、トラックの荷台からおり、ランウェイを歩き始める。登場したのは漆黒と鮮やかな紅色が混ざり合った2色のスーツやブレザー、ベストなどフォーマルなルック。また、いくつかのスカートやブレザーには、縦にほそくにカッティングされた生地がフリンジのようにつけられ、それが歩く度に揺れるとかっちりとした印象に程よい軽快さを加えていた。
開幕ショーのフィナーレは、C JEAN(シー ジーン)と人間国宝で百歳を超える漆塗り職人王清霜氏が作り上げたコラボレーションだ。同ブランドは王清霜氏の作品を二次創作し、ファッションに漆工芸の「蒔絵」を再現。各ルックには王清霜氏が何ヶ月もかけ描いた作品が施され、唯一無二の世界観を作り上げた。特に目を引いたのはショーの後半に登場した黄金色のドレス2着だ。どちらも大振りのフリルが何層ものレイヤーになって重なり、歩くたびに揺れるドレスの立体感が引き立ち、圧倒的な存在感でフィナーレを飾った。
ブランドのクリエイティブディレクターであるChun Yuan Jean(チュン ユアン ジーン)氏は、今回の王清霜氏とのコラボレーションについての想いをOSFへ以下のように語った。
「人生を賭けて一つのことを探究し、極めることは非常に難しく、現代ではそれを諦めてしまう人がとても多いように感じます。王清霜氏は若き頃からアーティストとして、一心不乱に漆塗りを続けてきたお方です。そんな素晴らしい方と今回一緒にコレクションの作品を作り上げることが出来、本当に嬉しく思いますし、彼の芸術家として創作に対する姿勢をとても尊敬しています。」
開幕ショーで全てのブランドのコレクション発表が終わると、バイオリニストの林品任(リン ピンレン)氏とピアニストの陳培鈞(チェン ペイジュン)氏が織りなす優美な演奏パフォーマンスとともに、台南の夜空に盛大な花火が打ち上がった。その場にいた全ての観客が、美しい演奏と大規模な花火で非日常に酔い浸り、感動を共にしたに違いない。圧巻の開幕ショーだった。
台湾の繊維メーカーとブランドによるサステイナブルショー
続いて3月24日(現地時間)には、開幕ショーと並んで見どころとされていたアジア初の「サステナブルショー」が行われた。ここでは、DYCTEAM(ディワイシーチーム)、oqLiq(オクリック)、PCES(ペーセス)、SYZYGY(シースジー)、UUIN(ユーユーアイエヌ)、WEAVISM 織本主義(ウィービズム) のデザイナー6組が参加。台湾の繊維メーカーとコラボレーションし、 合計12着の作品を披露した。このサステナブルコレクションでは、どの参加ブランドも炭素回収技術を備えたリサイクル素材、海洋廃棄物やペットボトルから作られたリサイクル生地、工場から出た端材をリサイクルして作られた綿材など、台湾の繊維メーカーたちが多種多様なエコ素材を開発した生地を使用して服作りを行った。
その中でもWEAVISM 織本主義(ウィービズム)は、日本のゲームソフト販売・開発会社を行う株式会社コーエーテクモホールディングスと提携し、ゲーム「Wo Long: Fallen Dynasty」から着想を得たコラボレーションアイテムを発表。今回のコレクションについて、ブランドのクリエイティブディレクターを務めるTony(トニー)氏は、ゲームと同じように、すべての衣服は最終的に埋葬されるか焼却されるかして、いずれは死を迎えてしまうが、そこにはリサイクルやリユースの可能性があることを、ゲームの中で繰り広げられるストーリーと重ねてコレクションに落とし込んだと話す。
「これは、自然界で死体の後始末をすることで知られる埋葬用カブトムシを思い起こさせます。」「ペットボトルや工場廃材のリサイクルコットンを使用したエベレストテキスタイルのエコファブリックを使用することで、この昆虫のシルエットとサステイナブルな精神を表現しています。」と述べた。
台北ファッションウィークが目指す未来
その他にも現在台北ファッション ウィークの公式会場である松山文創園区では、3月24日〜3月29日の期間、12のブランドショーと3つの学生ショーが開催されている。
台湾の行政院文化部が主催し、台湾コンデナスト グループ CNX Taiwanがプロデュースを手がける台北ファッションウィーク。「ファッションウィーク」というと、他の国ではファッションウィーク運営団体が主催を務めているが、台湾では行政院文化部が率先して行い、国を揚げて台湾デザイナーの育成に励んでいる。毎シーズン、コンペティションから選出されたファッションウィーク参加ブランドに対し、コレクションの製作費用のサポートから、実際のショーの開催にかかる費用まで行政院文化部がサポートを行なっている。
文化部次長の李連權氏は、台北ファッションウィーク開催に際し「台湾は様々な国から影響を受けた多文化・多民族社会なので、異なる文化を表現できる多様なデザイナーの世界的知名度を上げ、台湾唯一無二の魅力を世界に伝えていきたい」とコメント。「また、台湾では繊維産業が盛んなことも一つの強みであり、台湾の最先端技術で作られたエコ素材をファッションデザインの力を通じて、より多くの人に知ってもらいたいと思っています。」と台湾が誇る環境に配慮された高品質な生地の生産とサステイナブルファッションの発展についても、今後のさらなる展望を述べた。
東京、ソウル、上海に続いて、台北ファッションウィークが今後より認知され、台湾発のファッションブランドやデザイナーが世界に名を響かせる日は、そう遠くないだろう。
台北ファッションウィーク開幕ショー公式動画