『台北ファッションウィーク 2026春夏オープニングショー』ドラマとファッションが交差する、新たな文化の舞台

Taipei Fashion Week scaled

10月16日(現地時間)、台北の松山文創園区にて、「台北ファッションウィーク2026春夏(Taipei Fashion Week SS26)」が華やかに開幕した。今季のテーマは「Fashion, Action!」。台湾のテレビドラマ文化とファッションが融合することで、映像と服飾の境界を超えた“ストーリーテリングとしてのファッション”を体現したオープニングショーが披露された。

「ファッションは文化の鏡」──時代と社会を映す表現としての装い

台湾文化部の李遠(Li Yuan)文化部長は、開幕にあたり次のように語る。

「ファッションは単なる美の表現ではなく、時代を映す文化の反映です。台北ファッションウィークは創設以来、異分野との協働と文化的イノベーションを推進し、ファッションと日常の関係を探求してきました。」

「Action!」という映画の掛け声を再解釈した今季のテーマは、台湾の創造力と挑戦精神を象徴する。“Drama × Fashion”をコンセプトに掲げたオープニングショーでは、ランウェイと舞台の境界が溶け合い、観客を物語の世界へと誘った。

照明、音楽、衣装が一体となった演出は、まるでファッションが語り、感情を動かす“映画”そのもの。デザイナーたちは生地、構造、シルエットを通じてドラマティックな感情を纏わせ、文化的共鳴を生み出した。

6人のデザイナーによる6つのドラマ

今季のオープニングショーでは、台湾を代表する6人のデザイナーが、それぞれ6つの人気ドラマとタッグを組み、計60ルックを披露した。各ブランドのランウェイには、ドラマの主演俳優たちも登場。物語の登場人物をファッションを通して再解釈し、スクリーンから現実へと物語を引き出した。

【ディワイシーチーム(DYCTEAM)x 化外之医(The Outlaw Doctor)】

ショーの最初を飾ったのは、ディワイシーチームのコレクションだ。「縫い目は、記憶と再生の言語である」──その言葉を体現するように、ブランドはドラマ『The Outlaw Doctor(化外之医)』の世界観を、服というもうひとつの物語として描き出した。

体制に抗いながらも、人間の誠実さを信じ続ける医師の姿。そのストーリーに共鳴したデザイナーの趙之逸(McFly Chao)は、スーツ地とジャカードデニムを組み合わせ、ツートーンのパッチワークとアシンメトリーな構造で「秩序と自由の衝突」を表現した。ウォッシュ加工で表面に残された質感は、治癒の跡や時間の経過を思わせ、布がまるで記憶を縫い合わせるように息づいている。

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また、コレクション全体には、ディワイシーチームらしい機能性とコンセプチュアルな美学が融合。オーバーサイズのコートやリラックスフィットのジャケットは、着る者の内面を包み込みながらも、どこか外界との緊張が孕んでいた。特にモデル陣が放つ静謐な表情と無機質な空間構成は、まるで臨床室の中で感情を抑圧しながら生きる人間の姿を想起させた。

DYCTEAM x 化外之医 The Outlwa Doctor

【ウェアヴィズム(WEAVISM)× The Cleaner(人生清理員)】

続くウェアヴィズム(WEAVISM)は、ドラマ『The Cleaner(人生清理員)』を通じて、“再生”と“継続”をテーマに掲げた。

今季のコレクションは、リサイクル素材を用いたワークウェアをベースに構成され、ドラマに登場する“人生の清掃人”というキャラクターをファッションで可視化。手袋や防護マスク、掃除機などのアイテムを取り入れたスタイリングは一見実用的だが、それらは“人が抱える記憶や痕跡”を浄化するための象徴的なツールでもある。

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グレーやブラック、そして差し色のイエローといったカラーパレットは、清掃現場のリアリティを思わせつつも、そこに脈打つ人間の温もりを感じさせた。デザイナーの陳璽年(Tony Chen)はこのコレクションについて、「記憶を整理し、再び前に進むための浄化のプロセス」と語っている。

ランウェイを闊歩するモデルたちは、まるでドラマの登場人物が現実に歩み出したかのようであった。特に俳優の鳳小岳(Rhys Fang)が見せたパフォーマンスは、無骨な中にある優しさを滲ませ、服と身体、そして物語がひとつになる瞬間を生み出していた。

WEAVISM織本主義x人生清理員 The Cleaner

【ディリート(Dleet)x Us Without Sex(今夜一起為愛鼓掌)】

人と人とのあいだに生まれる、言葉にできない“距離”──その微妙な感情を映し出したのが、ディリート(Dleet)のコレクションだ。ドラマ『Us Without Sex(今夜一起為愛鼓掌)』をインスピレーション源に、デザイナーの李倍(Baron Lee)は、友情と愛情の境界をたゆたう女性たちの心の揺らぎを、ミニマルで詩的なスタイルへと昇華した。

黒と白、そしてごくわずかな光沢を持つグレーのコントラストは、抑えたトーンでありながら、内面に潜む感情の複雑さを語りかける。透けるような軽い素材や、ボディラインをわずかに曖昧にするドレープが、心の距離感や未完成な関係性を象徴していた。

また、直線的なカッティングと柔らかなテキスタイルの組み合わせが生み出すのは、“理性と感情の均衡”というディリートの美学。ミニマルでありながら、そこには抑えきれない情緒が見え隠れする。

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俳優の王可元(Greg Hsu)がゲスト出演したランウェイでは、感情を抑え込むような眼差しと緩やかな動作が、コレクション全体に静かなドラマを与えた。

身体と精神、構造と感情のあいだに宿る“曖昧さ”。恋愛でも友情でもない、しかし確かに存在する人と人とのつながり。その微妙な距離をモードの言語で語り、纏う人の内側に静かに響かせた。

Dleet x 今夜一起為愛鼓掌(US WITHOUT SEX)

【レイ チュウ(RAY CHU)x Holiday(拜六禮拜)】

週末の柔らかな陽射しのように、静かでありながら心を解き放つ──レイ チュウ(RAY CHU)の最新コレクションは、そんな“日常の中の自由”をテーマに掲げたドラマ『Holiday(拜六禮拜)』からインスピレーションを得ている。

コレクション全体に漂うのは、リラックスと洗練の絶妙なバランス。構築的なジャケットに軽やかな素材を掛け合わせ、しなやかなフォルムで身体の動きを解放する。ベージュ、クリーム、サンドなどの柔らかなトーンに、深みのあるブラックやコバルトブルーを挿し色として加えることで、穏やかさの中にもエッジの効いたモダニティがプラス。

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レイ チュウが得意とするジェンダーフルイドなシルエットは、性別の枠を取り払い、“誰もが自分らしく生きること”を称えるように広がる。ショートスーツやサテンのワンピース、オーバーサイズのセットアップが同じ空間に並び立つ様は、まさに「多様性の共存」を体現していた。

俳優の孫淑媚(Sun Shu-Mei)と連晨翔(Lien Chen-Hsiang)が登場したランウェイでは、ナチュラルな表情と軽やかな動作が、日常そのものの美しさを映し出す。服が演じるのではなく、“生きる”ことの一部として存在しているようだった。

RAY CHU x 拜六禮拜(Holiday)

【ニキイェ(NIKI YEH)× Tabloid(死了一個娯楽女記者之後)

鋭くも美しい“真実の光”を纏うように、ニキイェ(NIKI YEH)のコレクションは、ドラマ『Tabloid(死了一個娯楽女記者之後)』での〈暴露と犠牲〉の物語をファッションとして再構築した。スキャンダルに翻弄される女性記者の姿を通して、真実を追い求める意志と、その代償としての孤独を表現している。

今季のルックは、ピンク、レッド、ラベンダー、ブラックといった色彩のグラデーションによって構成され、華やかさの中に潜む緊張感を具現化した。フェミニンなドレスの柔らかいドレープは、脆さと勇気の境界を象徴し、一方でメタリックな質感やレザーの質感が、抗うような意志を静かに主張する。ニキイェはこのコントラストの中に“女性の真の強さ”を見出している。

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また、カマキリの触角や関節構造から着想を得た立体的なフォルムは、警戒と覚醒を象徴。繊細なレイヤリングの中には、張り詰めた感情が息づく。ブラックのボディスーツやカットアウトドレスは、露出ではなく「自分を守る鎧」として機能し、暴露されることへの恐怖と、それでも前へ進む決意を併せ持っている。

俳優の柯淑勤(Ko Shu-Chin)と林予晞(Allison Lin)が登場したルックでは、視線と佇まいだけで物語が続いていくような緊迫感が漂った。彼女たちの静かな存在感は、報道の裏にある人間の尊厳と痛みを象徴していた。

NIKI YEH x 死了一個娯楽女記者之後(Tabloid)

【オクリク(oqLiq)x  The World Between Us: After the Flames(悪との距離 II)】

静けさの奥に潜む葛藤を、布と構造で見せたのがオクリク(oqLiq)の“INTERLACE”コレクションだ。ドラマ『The World Between Us: After the Flames(悪との距離 II)』から着想を得て、人間社会が抱える倫理的ジレンマや分断、そしてその先にある「再生」をテーマに据えている。

ブランド特有のテクニカルなアプローチは今季も健在。モジュラー構造のコートや分断的なテーラリングが、社会の“断裂”を視覚的に表しながらも、異素材を織り交ぜることで「対立するものを再び結びつける力」を象徴していた。機能的なパターンの中に、どこか精神的な柔らかさが漂うのもオクリクらしい。

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カラーは、カーキ、スモーキーブルー、チャコールグレーなど自然の中に溶け込むような静謐なトーン。そこに差し込まれるシルバーの反射素材が“希望の光”を思わせ、現代の混沌を生き抜くための静かなレジリエンスを感じさせた。

ランウェイでは、俳優の藍葦華(Lan Wei-Hua)や夏騰宏(Summer Meng)が登場し、衣服と物語が呼応するような佇まいを見せた。まるで登場人物たちが現実に存在するかのように、彼らの存在はファッションとドラマの境界を曖昧にしていった。

oqLiq x The World Between Us: After the Flames
oqLiq x The World Between Us: After the Flames

台北が見せた、物語としてのファッション

演技と服飾が溶け合う瞬間、観客は“ドラマがファッションを動かす”という今季のテーマを肌で感じ取った。そこに広がっていたのは、単なるショーではなく、物語が布地をまとい、生きた感情として宿る“映画的ランウェイ”だ。

文化と創造が交錯する台北ファッションウィークならではの、活気ある幕開けとなった。

台北ファッションウィーク 2026年春夏オープニングショー

続く、11ブランドの単独ショー

なお、オープニングショーを皮切りに、10月17日から19日にかけて全11ブランドによる単独ショーが開催される。ここでは、台湾の新鋭から実力派までが集い、同国のファッション文化の成熟と多様性を世界に発信していく。

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