ファッション業界がパンデミックから徐々に回復し、様々な分野でニュースが流れた2023年。皆さんはどんなニュースが最も印象に残っているだろうか。
ビジネス面では、大手メディアの倒産やファッション、美容ブランドのM&Aが相次いだり、ラグジュアリー業界の売り上げ低迷が顕著に現れた1年だったと言えるだろう。また、トレーサビリティや衣料品労働者の公正な賃金をめぐる問題など、より持続可能でトレンスペアレントな企業の取り組みへの基準も高まった。
ファッション面では、大手ファッションブランドのクリエイティブ・ディレクターの交代が相次ぎ、新体制でのスタートを切ったメゾンが多かった。また、セレブリティらが自身のファッションラインを立ち上げるという動きも活発に見られた。
本記事では、OSF編集部が厳選した2023年ファッション業界で起きた特筆すべきニュースをまとめてお届けする。
伝説のデザイナーパコ ラバンヌ(Paco Rabanne)88歳でこの世を去る
2023年2月、ファッションデザイナーのパコ ラバンヌ(Paco Rabanne)が88歳で亡くなった。ラバンヌはプラスチックやアルミのような従来は使われない特殊な素材を使用して服作りをし、これまでに類をみない異例なキャリアの持ち主として、オートクチュール業界をあっと言わせてきたデザイナーであった。
ブランド「パコ ラバンヌ」は、1966年に設立され、オートクチュールデビューを果たす。「マニフェスト」と名づけられた最初のコレクションは「現代的な素材を使った12の着られないドレス」と題され、これまで服作りに使われてこなかったプラスチック、金属、紙などの斬新な素材を使用。また、服作りの工程は「縫う」ではなく、異素材をペンチで繋いだり、接着剤でくっつけたりして仕上げた。こういった「ラバンヌ手法」は、業界内に大きな反響を呼び、60年代のモード界に新風を吹き込んだ。
またラバンヌは、ファッションだけではなく、フレグランス業界でもその名を轟かせてきた1人だった。彼の逝去を受けて、業界の多くの人々から悲しみの声が寄せられた。
【2023年メットガラ】豪華セレブ達のレッドカーペット衣装まとめ『カール ラガーフェルド:美のライン』
2023年も盛大に行われたファッション界の最大の祭典、メットガラ(MET GALA 2023)。
メットガラは、1995年から米ヴォーグ編集長のアナ ウィンター(Anna Wintour)よって主催され、「The Costume Institute(コスチューム インスティテュート)」が毎年開催している特別展を祝福するオープニングイベントだ。
昨年は、展示会『Karl Lagerfeld: A Line of Beauty(カール ラガーフェルド:美のライン)』の開催を祝福し、ゲスト達には『カールに敬意を表して(in honor of Karl)』のドレスコードが与えられた。
会場に集まったセレブ達は、想い想いにカールの世界観を解釈し、表現。ラガーフェルドが遺したクリエーションへの敬意を込めて、「シャネル」のアーカイブを着用したセレブ達の姿が多く見られた。また、ラガーフェルドのアイコンだった愛猫「シュペット」に扮したセレブたちの装いも大きな話題をさらった。
ルイ・ヴィトン 2024年春夏メンズ: ファレル・ウィリアムス時代の幕開け
6月に行われたルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)の2024年 春夏メンズコレクションでは、『ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)』時代が幕を開けた。
パリを象徴するポンヌフ橋を舞台に行われたこのショーは、同ブランドのメンズコレクションにおける史上最大規模であり、招待されたゲストの数も過去最多を誇るものとなった。
2024年春夏メンズコレクションで、ファレルが新しく発表したのが、ブランドのシグネチャー柄であるダミエ・パターンとカモフラージュ柄を融合させた「ダモフラージュ」。その他にも、ピクセル化されたダミエ・チェックからカラフルなダミエ・スタイルのデニムやテーラードまで、さまざまな形で大胆な「ダミエ・モチーフ」をコレクションに取り入れた。
もともと音楽プロデューサー、アーティストという背景を持つウィリアムスが、今回のショーケースで見せたのは、まさに感謝と団結を表現した華麗なるアンサンブルだった。前半の優美なオーケストラの生演奏と、後半の生き生きとしたゴスペルの聖歌隊の生演奏によって、新しい命が吹き込まれた新コレクションをとてもエモーショナルで力強いものにしてくれた。
フィービー ファイロ(PHOEBE PHILO)のコレクションが待望の解禁
10月には、デザイナーのフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が手がける自分の名を冠したブランド「フィービー ファイロ(PHOEBE PHILO)」が、待望のファースト・コレクションをリリースした。
多くの人々の期待を背に、ドロップされたフィービー ファイロのファースト・コレクションは、彼女がセリーヌ時代に体現してきた洗練されたデザインと控えめなエレガンスの集合体だった。素材やアイテム、シルエット、それはかつて彼女が愛したものを2023年にふさわしい形でアップデートしたもの。
また同ブランドは、サステナビリティへ取り組みを徹底して行い、近年ファッション業界で問題視されている過剰生産を行わないことを約束した。そうした方針から、コレクションのリリースは従来のファッションカレンダーではなく、自身のスケジュールに沿って発表をしていくとされている。
発売開始から数時間以内に、ほとんどの商品はウェブサイト上で完売となり、ファッション愛好家たちを熱狂させた。
カイリー・ジェンナー、新ファッションライン「Khy」のリリースを発表
同じく10月には、カイリー・ジェンナーが、自身の新ファッションブランド「Khy」を立ち上げた。
ジェンナーは、2019年に21歳で世界最年少の自力で億万長者になったビジネス界の屈指のセレブリティだ。また、カーダシアン一族の最年少の兄妹はまた、ファッションにも精通しており、大手高級メゾンのクリエイティブ・ディレクターの現在のラインナップと常に仕事をしている。
リアリティ番組の大物スターであり、経営者として自身のビューティーブランド、カイリーコスメティクス(KYLIE COSMETICS)を成功させている彼女は、このブランドの発表によって、クリエイティブ・ディレクターとアパレル・ブランド・オーナーという新たなタイトルを新たに手にいれた。
Khyは創造性と品質にこだわり、様々なブランドと共同開発した製品を手頃な価格で提供している。また、最初のドロップから2週間も経たないうちに、ジェンナーはWSJ. イノベーターに選ばれた。
英国版『VOGUE』編集長エドワード・エニンフルが退任へ
英国版 Vogueは、Vogue誌の「ヨーロッパ エディトリアル ディレクター」と英国版Vogueの「編集長」を兼任しているエドワード・エニンフル(Edward Enninful)が、2024度3月をもって現役職を離れることを発表し、ファッションメディア業界に衝撃が走った。
近年、コンデナスト社は合理化とコスト削減のためにヴォーグのインターナショナル版で各国の編集長職の廃止を実施していたが、エニンフルは編集長職を維持していた唯一の存在だった。(Vogueのグローバル編集ディレクターを務めるアナ・ウィンターは例外)
しかし、この数年間でこれまで働いていた一流のスタイリストやファッションエディターが退社し、代わりにウェブに精通した若いエディター達がエニンフルの部下となった。そうした流れからエニンフルは、編集業務の合理化と各エディションのコンテンツ戦略の調和を図る為に、編集長というポジションを離れ、新しい役職でコンデナストに貢献するという決断に至ったようだ。
退任後、エニンフル氏は、コンデナスト(Condé Nast)本社、『Vogue』の「グローバル・クリエイティブ&カルチャー・アドバイザー」に就任する。それに伴い、英国版 Vogueでは、新しい「編集コンテンツ責任者(Head of Editorial Content)」を採用する。
グッチ、トム・フォード、モスキーノ、マックイーンの新体制(そしてダヴィデ・レンヌの逝去)
2023年は、多くのファッションハウスで、リーダー交代が起きた1年だった。
1月にはグッチ(GUCCI)とその親会社のケリング(KERING)が、アレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の後継者となる新たなクリエイティブ・ディレクターに、イタリア人デザイナーのサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)を任命した事を発表した。サルノの手がけたファーストコレクションは、2023年9月に開催されたミラノ ファッション ウィークで披露され、グッチに新しい風をもたらした。
4月には、トム フォード(Tom Ford)が2023年フォールコレクションをサプライズで公開し、同時にフォード自身がブランドから去ることを発表。その後すぐに、ブランドの社長兼最高経営責任者にはギョーム ジェセル(Guillaume Jesel)、フォードの後任となるクリエイティブディレクターには、ピーター ホーキングス(Peter Hawkings)が就任することが発表された。
また、10月にはアレキサンダーマックイーン(Alexander McQueen)が、ショーン・マクギアー(Seán McGirr)をメゾンの新しいクリエイティブ・ディレクターに任命したことを発表した。マクギアーは、長年のクリエイティブ・ディレクター、サラ・バートン(Sarah Burton)の後任となる。これからマクギアーが、このメゾンのユニークなレガシーへ、自身のクリエイティビティをどのような形で吹き込んでいくのか、期待が高まる。
そして、世界中を悲しみの渦に巻いたのが、モスキーノ(MOSCHINO)の新クリエイティブディレクターに就任したダヴィデ・レンネ(Davide Renne)の死去だ。享年46歳だったレンネは、突然の心臓発作で亡くなったと報じられた。
レンネは2023年10月にモスキーノの新クリエイティブ・ディレクターへ任命され、2024年2月のミラノ・ファッション・ウィーク2024年秋冬で、ファーストコレクションを披露する予定だった。