【2023年ハイライト②】ファッション業界の記憶に残るビジネスニュース

ファッション業界がパンデミックから徐々に回復し、様々な分野でニュースが流れた2023年。皆さんはどんなニュースが最も印象に残っているだろうか。

ビジネス面では、大手メディアの倒産やファッション、美容ブランドのM&Aが相次いだり、ラグジュアリー業界の売り上げ低迷が顕著に現れた1年だったと言えるだろう。また、トレーサビリティや衣料品労働者の公正な賃金をめぐる問題など、より持続可能でトレンスペアレントな企業の取り組みへの基準も高まった。

ファッション面では、大手ファッションブランドのクリエイティブ・ディレクターの交代が相次ぎ、新体制でのスタートを切ったメゾンが多かった。また、セレブリティらが自身のファッションラインを立ち上げるという動きも活発に見られた。

本記事では、【2023年ハイライト①】ファッション業界の記憶に残るニュース に続き、OSF編集部が厳選した2023年ファッションビジネス業界で起きた特筆すべきニュースをまとめてお届けする。

米国の新興メディア「ヴァイス(Vice)」の経営破綻とカーリー・クロス(Karlie Kloss)による「i-D Magazine」誌の買収

2023年5月に、アメリカの新興メディア「ヴァイス メディア(VICE)」は連邦破産法11条(Chapter 11)の適用を申請し、経営破綻したことを発表した。同社が裁判所に提出した資料によると、負債総額は推定で最大10億ドル(日本円で最大1360億円)にのぼると伝えられた。

Photo: ShutterStock

そんな「ヴァイス・メディア」の傘下にあったのが、英国の英国のファッション・カルチャー誌「i-D Magazine」だ。しかし11月には、モデルで実業家のカーリー・クロス(Karlie Kloss)による同誌の買収が発表された。この買収によって、クロスは「i-D Magazine」のCEOに就任し、編集長を務めていたアラステア・マッキム(Alastair McKimm)は、チーフ・クリエイティブ・オフィサー兼グローバル編集長に就任することも明らかになった。

Photo: Karlie Kloss/ ShutterStock

ケリング(Kering)50億ユーロ超の評価額でヴァレンティノ(Valentino)の30%を買収

2023年7月、ケリング(Kering)は、ヴァレンティノ(Valentino)の親会社であるカタールの投資会社メイフーラ(Mayhoola)から同ブランドの株式30%を17億ユーロで取得すると発表した。これには、2028年までにケリングがヴァレンティノの株式資本100%を取得するというオプションも含まれた。

また、メイフーラはパートナーシップの一環として、最終的にケリングに投資する可能性もあることも示唆。ヴァレンティノは25カ国以上に211の直営店を展開しており、2022年には14億ユーロの売上と3億5000万ユーロの経常EBITDAを記録した。

この戦略的パートナーシップによって、ヴァレンティノCEOのヤコポ・ヴェントゥリーニ(Jacopo Venturini)がメイフーラの傘下で実施したブランド向上戦略をさらに後押しし、ヴァレンティノを世界で最も賞賛されるラグジュアリーメゾンのひとつとして更に育てていくことが期待された。

Courtesy of Valentino

コーチの親会社タペストリー(Tapestry)、マイケルコース、ヴェルサーチェ、ジミーチュウを85億ドルで買収へ

8月には、コーチ(Coach)の親会社であるタペストリー(Tapestry)が、マイケル・コース(Michael Kors)、ヴェルサーチェ(Versace)、ジミー・チュウ(Jimmy Choo)などのファッション・ブランドを所有するカプリ・ホールディングス(Capri Holdings)を約85億ドルで買収した。

タペストリー社は、有名ブランドをいくつも買収し、傘下に持つことで、LVMHやケリング(Kering)のようなヨーロッパの巨大コングロマリットに挑む姿勢を見せた。また、この統合により3年以内に約2億ドルのコスト削減を見込んでおり、この買収の資金調達の大部分を負債で賄う予定とのこと。

Photo: ShutterStock

フランソワ・ピノー、ハリウッドのクリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(CAA)の過半数株式を取得

9月には、フランスのビリオネアであり実業家のフランソワ・ピノー(François Pinault)氏の持ち株会社アルテミス(Artémis)が、ハリウッドの大手タレントエージェンシーであるクリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(Creative Artists Agency=以下、CAA)の株式の過半数をプライベート・エクイティ会社TPG社から購入した事が明らかになった。

アルテミスは、高級ブランドのグッチやアレキサンダー・マックイーンなどの資産を含むポートフォリオにCAAを加える。CAAは、1975年に設立され、スポーツや映画、テレビ、音楽、デジタルメディア、マーケティングなど、さまざまな分野でトップスター達の代理人を務めているエージェンシーだ。取引条件は明らかにされていないが、以前ブルームバーグが報じた情報によると、ピノーはこの取引を約70億ドルと評価していた。

Photo: François Pinault and Salma Hayek/ Shutterstock

韓国通販大手クーパンがファーフェッチを5億ドルで買収|倒産の危機から救う

12月は大手ラグジュアリーEコマース・プラットフォームの経営不振による買収が立て続けに起きた。

倒産寸前の危機に瀕していたラグジュアリーEコマース・プラットフォームのファーフェッチ(Farfetch)は、韓国の巨大Eコマースサイトのクーパン(Coupang)に、5億ドル(約710億円)で買収された。近年、急騰するコストと負債、相次ぐ高リスクの投資、世界的な高級品市場の減速などの理由が重なり、ファーフェッチの時価総額は約2億ドルにまで急落していた。

韓国のクーパンは、2010年に設立され、「韓国のAmazon」と呼ばれるほど急成長を遂げているEコマース企業だ。同社はアメリカの投資会社グリーンオークス・キャピタル・パートナーズ(GREENOAKS CAPITAL PARTNERS)と協力し、ファーフェッチへ対し、5億ドル(約710億円)の資金援助を実施した。

Photo: ShutterStock

マイク・アシュリー率いるフレイザーズ・グループがマッチズファッションを買収

ファーフェッチのニュースのすぐ後には、英国のマイク・アシュリー(Mike Ashley)が所有する小売グループ、フレイザーズ・グループ(Frasers Group)が、ラグジュアリーEコマースサイトのマッチズファッション(Matchesfashion)をわずか5200万ポンド(約94億3000万円)で買収したことが報じられた。

Photo: matchesfashion.com

マッチズファッションはかつて、ラグジュアリーEコマースサイトとして急成長を遂げたが、2017年にエイパックス・パートナーズ(Apax Partners)に売却して以来、同社は新規顧客の獲得と事業規模の拡大という複雑な課題と収益性のバランスを取るのに苦戦し、年々赤字幅が拡大していた。複数の経営陣の交代、予期せぬパンデミック、そしてホールセール・モデルの構造的な衰退が、さらに拍車をかけ、昨年に現在マッチズファッションの最高経営責任者を務めるニック・ベイトン(Nick Beighton)が着任するまで、苦戦を強いられてきた。

この2社と同様に、リシュモンのユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)も、ファーフェッチとの赤字部門の合併取引が破綻し、今後の展望が不透明な状態にある、というのが2023年末までの現状だ。