超低価格帯アパレル小売業者であるシーイン(SHEIN)は、非営利財団「シーイン・ファンデーション(SHEIN Foundation)」を設立したと発表した。この財団は、より包括的で持続可能なコミュニティを育むことを目的としており、これまで同社が展開してきた慈善活動を一元化する役割を果たすという。
これまで、シーインは「シーイン・ケアズ(Shein Cares)」や「拡張生産者責任(EPR)基金」を通じ、ジェンダー平等やテキスタイル廃棄物削減など、社会的および環境的課題に取り組む活動を支援してきた。財団設立によって、同社の慈善活動は透明性と責任を高め、より効率的で持続可能な形で進められる見通しだ。
3つの重点分野に注力
シーイン・ファンデーションは、以下の3つを重点分野として活動を展開する:
- コミュニティの生活向上
包括的でアクセス可能な社会を目指し、特に女性や若者、支援が必要な地域社会を対象に、社会の枠組みを再形成する取り組みを支援する。 - 生物多様性の保護
気候変動や生息地の喪失に対応するため、陸上および海洋生態系の保護や修復、持続可能な利用の促進を行う。 - 持続可能な変革の推進
ファッション業界全体での価値連鎖の再定義を目指し、研究・イノベーションの支援や持続可能な解決策の拡大を図る。
シーインのエグゼクティブチェアマンであるドナルド・タン(Donald Tang)は、声明の中で「私たちが関わるコミュニティをエンパワーメントし、社会に還元することは、シーインの経営理念の中核を成すもの」とし、「財団設立により、慈善活動を公式な枠組みのもとで行うことで透明性と責任が強化され、価値観を共有する活動により影響力のある支援が可能になります」と述べた。
ケニアでのパイロットプロジェクトに500万ユーロを拠出
また、財団設立を記念して、シーイン・ファンデーションは「アフリカ・コレクト・テキスタイルズ(Africa Collect Textiles)」の慈善部門である「ACT ファンデーション」に500万ユーロ(約530万米ドル)を拠出すると発表。この資金は、ケニアを中心に古着リサイクルと廃棄物削減を目的としたパイロットプログラムに使用される。
具体的には、以下の活動が支援対象となる:
- 古着寄付を受け付ける回収ポイントの設置
- 廃棄テキスタイルをアップサイクルする新たな雇用の創出(特に若者や女性を対象)
- テキスタイル廃棄物を処理するためのリサイクルインフラの構築
- 地域社会向けのオンラインおよびオフラインの啓発活動(ワークショップや講義、収集活動の実施)
ACTファンデーションのディレクターであるエルマー・ストルーマー(Elmar Stroomer)は、「このプロジェクトは、テキスタイル廃棄物削減と循環型ファッションエコシステムの実現に大きく貢献します。地球環境を守るだけでなく、新たな雇用を生み出し、支援を必要とする人々に機会を提供する取り組みです」と語っている。
シーインは、これまでジェンダー平等やテキスタイル廃棄物削減などの社会的課題に取り組む団体を支援してきた。同財団の設立を通じ、これらの活動を統合し、透明性と持続性を強化することで、より効率的かつ影響力のある取り組みが可能になるとみられている。
シーインの労働環境問題と問われる倫理的責任
しかし一方で、シーインの労働環境に対する批判は根強い。昨年度にスイスの団体パブリック アイ(Public Eye)が実施した調査では、中国広州のシーインのサプライヤー工場で労働者が過酷な長時間労働を強いられている実態が浮き彫りになった。中には、1日12時間以上、週6日から7日働き、月に1日の休みしか取れないと証言する労働者もいる。また、給与が生産数に依存しているため、収入が安定せず、労働環境の厳しさが依然として課題となっている。
シーインは労働条件の改善に取り組んでいると主張しているものの、今年4月までに予定されているロンドンでのIPOを前に、倫理的な実践を証明する具体的な行動が求められている。
今回のシーイン・ファンデーション設立が、これらの課題に対する解決への第一歩となり、同社が信頼を取り戻すきっかけとなるのか。その動向が注視されている。