1月26日(現地時間)、米国のメイクアップブランド「パット マクグラス ラブス(Pat McGrath Labs)」が、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請したことが明らかになった。同社を巡っては近年、定番商品の供給不安や経営動向を巡る憶測が業界内で断続的に広がっており、今回の申請はそうした不透明感が法的手続きという形で表面化したものと言える。
競売延期と「事業継続」という選択
当初、同社の担保付貸し手によって1月27日に予定されていたブランド資産の競売は、今回の申請を受けて無期限で延期された。チャプター11の枠組みの下、同社は清算ではなく、通常の事業運営を継続しながら財務再編を進める方針を選択している。
ブランドは声明で次のように述べている。
「本プロセスの期間中、当社は通常の事業運営を継続しながら、バランスシートの再構築に取り組み、持続的な成長に向けた道筋を築いてまいります。パット マクグラス ラブスは、これまでと変わらず、コミュニティ、顧客、パートナー、そしてステークホルダーの皆さまへのコミットメントを維持し、ブランドを象徴する高品質な製品と、カルチャーを形づくるアーティストリーおよびイノベーションを提供し続けていきます。」
緊急融資が示す資金繰りの逼迫
裁判所に提出された関連書類からは、より具体的な資金繰りの実態も浮かび上がる。
2025年初頭以降、同社は流動性の制約に直面し、事業を安定させるために短期的な資金調達を重ねてきた。1月25日には、従業員の賃金や主要ベンダーへの支払いを目的とした100万ドル超の緊急融資を求める申立てを行っている。
さらに、同社は以前、GDA PMG Funding LLCから1,750万ドルのブリッジローンを受けていたが、当初合意されていた期限内に借り換えや返済を実行できず、未返済残高は4,300万ドル超に達していると主張されていた。この状況が、競売手続きへと発展する直接的な要因となったようだ。
創業から10年、急成長モデルの転換点
パット マクグラス ラブスは、著名メイクアップ・アーティストのパット・マクグラス(Pat McGrath)が2015年に創業。ブランドの幕開けとなったのは、40ドルのマルチユース・ゴールドピグメント「Gold 001」で、特注のパッケージと限定販売という手法が話題を呼び、公式サイトでは発売からわずか6分で1,000個を完売した。
その後、限定ドロップ型のプロダクト展開と、ランウェイ発の強烈なビジュアル表現を武器に、ブランドは急速に存在感を拡大。2018年には外部から6,000万ドルの資金を調達し、評価額は10億ドル超に達したとされる。
一方で、ビューティ市場の競争が激化し、消費者の購買行動が大きく変化するなか、オペレーション面の負荷も顕在化していった。近年は経営体制の再編や人員整理が行われ、成長軌道の見直しを迫られている。業界関係者によれば、直近年度の売上高は約5,000万ドル規模にとどまっているという。
ブランドは運営を継続
一方で、ブランドの活動自体が停止しているわけではない。約600万人のフォロワーを持つパット・マクグラスのソーシャルメディアでは、現在パリで開催中の「2026年春オートクチュールウィーク」における、スキャパレリ(Schiaparelli)のランウェイメイクの舞台裏が発信されている。そこでは、マクグラス自身がメイクを手がける様子も確認でき、クリエイティブ面での活動は引き続き継続されていることがうかがえる。
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また、彼女は昨年、ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)の新ビューティライン「ラ ボーテ ルイ ヴィトン」のビューティ・ディレクターに就任。第一弾として発表されたリップスティック「LV ルージュ」は全55色展開、1本140ユーロ/160ドルという高価格帯で市場に投入され、ラグジュアリービューティの価格戦略としても注目を集めた。
再建フェーズに入ったブランドの行方
「ロード(Rhode)」や「レア ビューティ(Rare Beauty)」といったセレブリティ主導のビューティブランドが、強固なコミュニティ形成と高い拡散力を背景に存在感を拡大する一方で、オペレーションや資金面での耐久力を欠いたブランドは、市場からの撤退を余儀なくされている。かつてカルト的な支持を集めた「アミ コレ(Ami Colé)」は売上の低迷と事業環境の変化を背景に事業終了を決断し、「カバーFX(Cover FX)」も関税やグローバル市場の変動を理由にブランドのクローズを発表した。
こうした分水嶺のなかでパット マクグラス ラブスは、チャプター11によって時間を確保し、財務基盤の再設計と供給体制の立て直しを同時に進められるかが焦点となる。ブランドの核である“アーティストリー”を、収益につながるスピードと実行力へ変換できるか――その成否が、再建の行方を左右する局面だ。
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