アディダス 対 トムブラウン: ストライプデザインの商標権を巡るバトル

2021年6月、スポーツブランドのアディダス(Adidas)は、ラグジュアリーブランドのトム ブラウン(Thom Browne)に対し、アディダスの商標である「3本ストライプ」を侵害していると主張し、提訴を起こした。

アディダスは、現在トム ブラウンに10億円超えの損害賠償を請求している。アディダスの弁護士は、「トム ブラウンのデザインのシグネチャーでもある4本のストライプがアディダスの3本のストライプと類似しており、ブランドを模倣している」、また「消費者がトム ブラウンの製品を自社製品と混同するほどストライプが似ている」と主張し訴えを起こしているのだ。

これに対し今月1月3日、両当事者はニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に出廷。ドイツの巨大スポーツブランドと、ニューヨーク生まれのラグジュアリーブランドの間で商標権を巡る論争が、新たな段階へと進み始めた。

トム ブラウンは、アメリカ人デザイナーのトム ブラウン氏(Thom Browne)によって、2001 年に設立されたブランドだ。また彼自身、アメリカファッションデザイナー協議会(CFDA)の会長も務める人物だ。ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に出廷の日、ブラウンは自身のブランドのシグネチャーである4本ストライプのソックスにショート丈のスーツを着て現れた。両社は、法廷外での和解の試みたが失敗に終わり、1月3日に裁判所に出頭し、両方の訴訟をジェド・ラコフ判事(Jed Rakoff)に提出した。(※ジェド・ラコフ判事は、エルメスとデジタルアーティストのロス・チャイルド氏のメタバーキンを巡る商標権についての訴訟も担当している。)

Michael M. Santiago/Getty Images

しかし、ここで浮かび上がる疑問が、単なるストライプ柄に対して、1つのブランドがその商標権を持つことが果たして可能なのだろうか、という点だ。

アディダスが最初に「3本ストライプ」を採用したのは、1949年。アディダスの創業者アドルフ・ダスラーがスパイク付きランニングシューズに3本ストライプ採用した時からだ。以降ブランドは「3本ストライプ」を同社製品のシグネチャーとして使用している。だが、実際のところ、こういった平行線をデザインとして取り入れているバーシティジャケットは、アディダスが「3本ストライプ」モチーフを使用した1949 年以前から、既に存在していた。

トム ブラウンは2008年に、論争の的となっている「4本ストライプ」である「グログラン (Grosgrain)」をデビューさせた。(※トムブラウンのウェブサイトではこの「4本ストライプ」を「グログラン」と呼んでいる)。その後4本線の「グログラン」はブランドのシグネチャーとなり、ジャケットからネクタイ、アクティブウェアまで、様々アイテムに採用され、「グログランシリーズ」として知られるようになる。

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通常、ファッションの商標とは、特定の名前、ロゴ、またはデザインを 1 つの企業だけが使用出来るように登録するものだ。しかしアディダスのようなストライプ柄はどこにでもあるデザインだと考えると、判断がより難しい。

Fashion Law Instituteでアソシエイト ディレクターを務めるジェフ・トレクスラー氏(Jeff Trexler)は、「これまでの判例から判断すると、歴史は後に登場した同様のロゴよりも、有名なマークを付けた原告を支持する傾向があります。 アディダスとトム ブラウンのストライプ柄の使用を巡る以前のやり取りは役に立ちません」と述べる。

アディダスはこれまで広告費に年間約3億ドルを費やし、この「3本ストライプ」のトレードマークを使用した製品の売上高は31億ドルに及ぶことを言及。アディダスはトム ブラウンに対し、ライセンス料として86万7,225ドル(約1億1,500万円)の損害賠償と、2~4本の平行線をあしらった製品で700万ドル(約9億3,000万円)の利益を得たとことを指摘し、同額の支払いを追加で請求している。

しかし、トム ブラウンの弁護士ロバート・T・マルドナド(Robert T. Maldonado)は、アディダスが主張を不当に遅らせたことを指摘。

実はトム ブラウンは2005年に、「3本 ストライプ」のデザインを用いてブランドをデビューさせている。その後、アディダスのCEOが2007 年にこのモチーフについて異議申し立てをした為、トム ブラウンはこのモチーフの使用を中止することに同意したのだ。その翌年、トム ブラウンはアディダスの商標を侵害せず法的な紛争を回避するために、「4本ストライプ」を立ち上げたという経緯がある。

それに加えて、トム ブラウンが「4本ストライプ」デザインを採用したアイテムをランウェイショーに登場させた2008年から2018年の間、アディダスから全くアプローチがなかったことに対して、ロバート・T・マルドナドは「過度に長いロスタイムは不公平である」と主張。裁判所の文書によると、トム ブラウンは「4本ストライプ」をあしらった商品を2009年に初めて発売し、2010年からはニューヨークの旗艦店にて当デザインが採用されたアクティブウェアの商品を販売を開始していた。

これに対しアディダスは、トム ブラウンがヨーロッパの「EUIPO(European Union Intellectual Property Office:欧州連合知的財産庁)」に「グログラン」の商標登録を申請した2018年初めに侵害の疑いに気づいたと主張。加えてアディダスの弁護士は、「同社にトム ブラウンの作品を監視する義務はなく、当初アディダスは、トムブラウンを直接の競合相手とは考えていなかった」と強調している。

しかしトム ブラウン側は、「4本ストライプス」の使用によって消費者へ混乱を招くとは考えておらず、アディダスが損害を受けたとは考えていないとコメント。更に弁護士のマルドナド氏は、「2つのブランドが2つの全く別のカテゴリーに存在する」という事実を指摘し、「トム ブラウンとアディダスは競合ではなく、トム ブラウンはラグジュアリーブランドであり、アディダスはマス向けのスポーツブランドである」ことを強調している。

仮に、今回トム ブラウンが「4本のストライプ」の使用を止めた場合には、2023年の第3四半期に約7,300万ドル(約96億8,000万円)に相当する損害が出ると言われている。