9月12日(現地時間)、デザイナーのアレックス・ワン(Alex Wang)はニューヨーク・ファッションウィークに華々しく復帰した。「女家長(The Matriarch)」と名付けられた今回のランウェイショーは、2023年プレフォール/フォール コレクション 以来の開催であり、アレキサンダーワン(alexanderwang)設立20周年にあたる。ワンはこの記念すべき舞台で、原点と未来を重ね合わせ、次の20年を見据えた強烈なブランドビジョンを示した。
2026年春夏ショーの会場となったのは、100年以上の歴史を持つニューヨーク・チャイナタウンの玄関口「58 Bowery」。ここは、まもなくアジアの芸術的卓越性を讃える文化拠点「The Wang Contemporary」へと生まれ変わる予定であり、ブランドが長年貫いてきた“文化的対話”の姿勢を体現するのにふさわしい舞台だった。
この夜、VIPゲストとして注目を集めたのは、カスタムドレスに身を包み、娘のカルチャー(Kulture)と6人の女性ボディガードを従えて登場したラッパーのカーディ・B(Cardi B)である。その姿はまさに“女家長”を体現し、ヒップホップ界の象徴としての熱烈な存在感を放った。さらに、マーサ・スチュワート(Martha Stewart) がシャンパン片手に麻雀牌を楽しむ姿や、ロー・ローチ(Law Roach)やティファニー・ハディッシュ(Tiffany Haddish)らVIPに向けたサプライズギフト、そしてSUVの上でポーズを決めたモハメド・ラマダン(Mohamed Ramadan)など、会場内外では多彩な演出が繰り広げられた。加えて、Twitchストリーマーのデイヴィス・ドッズ(Davis Dodds)によるライブ配信も行われ、会場はデジタルとリアルが交錯する“新時代の祭典”と化した。
“アルファ・フィーメール”へのオマージュ
“女家長”と題された今回のショーは、ワンがインスピレーションの源と語る母、イン・ワン(Ying Wang)に捧げられたオマージュであり、女性の力強さと自己掌握を讃えるマニフェストとして展開された。
その幕開けを飾ったのは、テーラリングを極限まで削ぎ落としたグレーのジャケットドレス。マニッシュなコードを借りるのではなく、女性の体のラインを際立たせるその造形は、ブランドが20年にわたり追求してきた“パワードレッシング”の進化形といえる。続いて現れたのは、ボリューム感あふれるフェイクファーのアウター。豪奢さと野性味を併せ持ち、まるで女性のための「鎧」のように力強さを体現していた。
そこからランウェイは、さらに素材と構築の実験へと発展する。バスト下やヒップで精密にカットされたボンディングジャケット、メタリックにラミネート加工されたツイード、支配的ニュアンスを帯びたクロシェニット──いずれも女性の体から直接エネルギーを引き出すような輝きを感じるものだ。
一方で、クラシカルな要素を再構築したルックも印象的だった。レザーショーツとグレーシャツを合わせたシャープなスタイルや、アーガイル柄のニットベストを重ねたシャツドレスは、伝統的なコードを刷新し、現代の文脈で再解釈されていた。
そこに、クリスタルのラッフルカラーや幾何学的なアクセントが加わると、ランウェイは一気に未来的な方向へと加速する。レーザーカットされたナイロンやシャープなブラックレザードレスは「ソフトとシャープ」の二面性を描き出し、ミニマルな白のセットアップは構築的でありながらも潔さを宿し、清新な未来像を暗示していた。
さらに、このショーで初披露されたのが、新作バッグ「Siren」である。メタリックな光沢とシグネチャーハードウェアが今っぽさを放ち、次世代のアイコンバッグとしての期待を大きく膨らませた。
コレクションは、ブライダルを想起させるレインウェア風のドレスで幕を閉じる。フィナーレに差し掛かり、天井から輝く紙吹雪が降り注ぐと、最後にワンが母イン・ワンと共にステージに姿を見せ、会場は大きな喝采に包まれた。
その後のアフターパーティー「Encore」では、ワンと母イン・ワンが再び登場。スピーチの中でワンは、「母は本当にインスピレーションの源であり、これまでの人生を通じて私を常に鼓舞し、恐れずに生きるよう背中を押してくれました。そして彼女の人生をかけた東洋と西洋の文化をつなぐ取り組みが、今夜ここで確かな形となっています」と感謝の言葉を伝えた。
また、Parris GoebelによるDJセットに続き、日本のヒップホップアーティストAwichが特別パフォーマンスを披露するなど、夜は再び熱狂に包まれた。
Ying Wang, Alexander Wang
Awich
アレキサンダーワンが掲げるのは「強さこそエレガンス、エレガンスこそ強さ」という未来志向の哲学であった。東西の美学を横断し、デジタルとリアルを結びつけ、ラグジュアリーとストリートの境界を曖昧にするその姿勢は、20周年という節目を越えても、挑発的で鮮烈な存在感を放ち続けることを証明していた。
アレキサンダーワン 2026年春夏コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
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