シャネル 2022-23年メティエダール・コレクションをセネガルの首都ダカールで発表

12月6日、シャネル（CHANEL）は西アフリカにあるセネガルの首都ダカールで、2022-23年メティエダール・コレクションのショーを発表した。欧州、北米のラグジュアリーブランドが、サハラ以南のアフリカでファッションショーを行ったのは今回が初めてのことだ。ショーの会場には、セネガル・ダカールの旧司法宮が選ばれた。

2022-23年メティエダール・コレクションでは、カラフルな衣装に身を包んだコンゴの“サプール”を始めとし、1970年代のスピリットを受け継いだパンツスーツ、色鮮やかなビーズで飾られたベスト、幾何学模様のスカート、フレアジーンズ、ティアードスカート、プラットフォームシューズなどが登場。

これらのアイテムには、カメリアなどフラワーモチーフのパッチワーク、パールやスパンコール、ラインストーンを使用した煌びやかな刺しゅう、マルチカラーのツイードなどがふんだんに使用され、セネガルの生き生きとしたスピリットや創造性に、シャネル本来の「らしさ」が吹き込まれていた。

今回のショーは3日間にわたって開催されたカルチャーイベントの一部で、ワークショップなども行われた複合的なもの。

かつて司法宮だった会場には、約850人のゲストが集まり、ファレル・ウィリアムス（Pharrell Williams）、ナオミ・キャンベル（Naomi Campbell）、ナイル・ロジャース（Nile Rodgers）、ホイットニー・ピーク（Whitney Peak）、モナコのカロリーヌ王女（Princess Caroline of Monaco）とその娘であるシャルロット・カシラギ（Charlotte Casiraghi）、小松菜奈など豪華顔ぶれが揃う。マキシマリスト的なアプローチやレトロなムード、そしてシャネルならではのアリュールやサヴォアフェール（受け継がれる職人技術）が見事に融合した作品群に、観客からは盛大な拍手が送られた。

現地の人々を巻き込んだアプローチで長期的かつ良好な関係構築を

セネガルはフランスの植民地だった過去を持つが、そんな歴史上の事実がありながらも現地の人たちが快くフランスのメゾンを受け入れたのには訳がある。シャネルはかつてよりその国々に根付く文化的サヴォアフェールを大切にしてきたメゾンである。今回のコレクションも、ブランドチームが現地のアーティストらと手を取り合うことで実現したものだ。

ショーのオープニングでは、セネガルの歌手、オブリー・ダマン（Obree Daman）や、同国のダンサー兼振付家ジャーメイン・アコニー（Germaine Acogny）が運営するダンススクールの生徒たちがパフォーマンスを披露。またブランドのルックブックの撮影にはセネガルの写真家マリック・ボディアン（Malick Bodian）を採用し、このコレクションに関する様々な映像はフランスの映画監督ラジ・リ（Ladj Ly）がパリとダカールに設立した映画学校クルトラジュメ（Kourtrajme）の学生たちによって制作された。

ダンサー兼振付家ジャーメイン・アコニーは「再び植民地化されるようなことは決して容認できないが、『シャネル』は敬意を持ってアプローチしてくれたし、何かを押し付けるために来たわけではないと感じた」と語った。

また、ファッション・コレクション部門アーティスティック・ディレクターを務めるヴィルジニー・ヴィアール（Virginie Viard）は、「メティエダール・コレクションなので、クリエイティブな交流ができるダカールはぴったりだと思った」と語り、今回のショーを皮切りに長期的な関係を構築することも目的の一つだと述べた。

2015年からシャネルのアンバサダーを務めるファレル・ウィリアムス（Pharrell Williams）は、「セネガルはフランスの植民地だったが、ポルトガルやオランダに占領されていたこともある。そうした歴史を深く理解するフランスのメゾンが現地を訪れ、うわべや口先だけの平等を唱えるのではなく、実際にそのカルチャーに敬意を払いながらともに仕事をする様子は本当に美しいものだと思う。人道に関する対話が起きている今、何をすべきかについて『シャネル』は一つの手本を示した」とショーの前に語った。

また、これまで行われてきたパリでのショーには全身シャネルを身に着けた観客が大多数を占めるが、今回はシャネルのバッグやジャケットに、アフリカのデザイナーによるモダンなウエアや伝統的な衣装を組み合わせた装いが多かったのも印象的だった。ファレル・ウィリアムスは観客たちのスタイリングに対し、「10年以上にわたって『シャネル』のショーに参加しているが、ここにはこれまでで最も素晴らしいファッションセンスの持ち主たちが集まっている」とその真新しさを称えた。

シャネルが見据える今後の西アフリカの可能性

現在セネガルを始めとする西アフリカににシャネルの店舗は存在しない。

シャネル ファッション部門プレジデント兼シャネルSASプレジデントであるブルーノ・パブロフスキー（Bruno Pavlovsky）は、西アフリカにシャネルの顧客は大勢いるものの、店舗をオープンするのにはまだ機が熟していないという。

同氏は「アフリカ各国の都市と、欧州や米国の都市おける平均的な生活水準にはまだ重大なギャップがある。また、われわれがダカールに来たのは商売をするためではなく、そのクリエイティブなエネルギーに加わり、互いに有益な結果を得るためだ」と述べた。

加えてブランドは、サステナビリティに関する取り組みの一環として、セネガルの農家からオーガニックコットンを調達する計画を立案中だ。セネガルは伝統的にコットンの生産地ではあるが、ブランドの基準を満たすには品質を向上する必要があり、3～5年後に質の高いコットンを公正な価格で調達出来るだろうという見通しを立てている。

今回のショーを機に、シャネルは西アフリカとの長期的かつ良好な関係構築の第一歩に踏み出したと言えるだろう。

2022/23 Métiers d’art CHANEL – DAKAR — CHANEL Shows