「Fear is not my enemy – it is a necessary companion to creativity, authenticity, integrity and life.
(恐れは敵ではない。それは創造性、真正性、誠実さ、そして人生にとって必要な伴侶である)
— マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)
2月3日(現地時間)、マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)は、ニューヨーク ファッションウィーク に先駆け、ニューヨーク公共図書館にて2025年春夏コレクションを発表した。「Courage(勇気)」と名付けられたこのショーは、ジェイコブスの“誇張”というフィルターを通じて現代社会の空気感を視覚化したものだった。
膨張するシルエット、圧倒的な存在感
コレクションの第一印象は、「まるで現実が歪められたかのような不均衡なプロポーション」だ。肩を極端に張り出させ、ウエストをタイトに仕上げたトップスは、対照的にボリュームたっぷりのボトムスと組み合わされ、人体のシルエットをデフォルメしている。フレアスカートや膨らんだパンツは、まるで衣服が自己主張しているかのような圧倒的な存在感を放つ。
中でも目を奪われたのは、まるで浮遊する雲のようなボリュームを持つドレス群だ。鮮やかなレッドや深みのあるボルドー、メタリックな光沢を帯びたパープルといった印象的なカラーパレットが相まって、モデルたちはまるで巨大な彫刻を身にまとっているかのような錯覚を生み出した。特に、フロントを大胆に覆うビッグボウや、身体全体を包み込む膨らみを持たせたコートは、視覚的なインパクトと圧倒的な存在感を放っていた。
ミニマリズムの中の実験精神
ジェイコブスはここ数シーズン、アメリカン・スポーツウェアの伝統を大胆に解体し、実験的なデザインへ と再構築してきたが、今季もその姿勢は変わらない。極端に誇張されたパンツのシルエット、分厚いウールの編み込みニット、滑らかなフェルトの質感など、日常着の延長線上にありながら、どこか現実離れしたアートピースのような仕上がりになっている。
また、構築的なカッティングを施したトップスは、直線的なフォルムを保ちながら、流動的なドレープとのコントラストを生み出している。このアンバランスさこそが、ジェイコブスらしいエッジィな遊び心を感じさせる表現だ。
アクセサリーとスタイリングの妙
アクセサリーもまた、このコレクションのテーマを際立たせる重要な要素であった。モデルたちはまるで異世界の住人のように、丸みを帯びたプラットフォームシューズや、アートピースのように歪んだレザーバッグを手にしていた。靴のトゥ部分は反り返り、まるで動物の蹄のようなシルエットを形成。顔には大きな赤いドットが施され、まるで人形のような無機質な表情を作り出していた。
こうした視覚的演出が加わることで、衣服だけでなく、「人間そのものの形態すら変容させる」 というジェイコブスの意図が明確に浮かび上がってきた。
Courtesy of Marc Jacobs
恐れを超えた創造性
マーク ジェイコブスは、ランウェイショーを単なる商業的なコレクションの場にとどまらず、ファッションが持つアートとしての可能性と概念的な挑戦の場であることを証明し続けている。彼の言葉、「Fear is not my enemy – it is a necessary companion to creativity(恐れは敵ではない。それは創造のための必要な伴侶である)」は、まさに今季のコレクションの根幹をなすものだ。
また昨年に、ジェイコブスはアナ・ウィンター(Anna Wintour)に招かれ、米Vogueのゲスト編集長 を務めた。その経験が彼自身のデザインにどのような影響を与えたのかは明確ではないが、ファッション誌の編集プロセスを通じて得た新たな視点が、彼のクリエイションをよりコンセプチュアルでありながらも着る人に寄り添うデザインへと進化させたようにも感じ取れる。
極端なシルエット、視覚的なインパクト、そして服が持つ本質への探求。2025年春夏のマーク ジェイコブスは、恐れを乗り越えた先に広がる自由な創造の世界を見せてくれた。
マーク ジェイコブス 2025年春夏コレクションの全てのルックは、以下のギャラリーから。
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