静寂の中で幕を開けたショーは、ホワイトやブラックを基調としたニットやセットアップのシンプルなルックで始まった。しかし、時間が経つにつれて、ルックには徐々にカラフルな色彩が加わり、ショー全体が「色のある世界」へと変貌していく。
モデルたちは、星の王子様を連想させるような王冠を被っていたり、色とりどりの風船を背負ったエンターテイナーのようだったり、絵の世界に没頭している画伯のような風貌であったり。こうした演出は、観客の想像力を無限に掻き立て、ショーが進むごとに世界が広がりを見せていく感覚を抱かせた。
この作品で小塚は、親友や家族、そしてファッションへの深い思いを絵の力を借りて表現したという。今季のショーのメインカラーである「青」は、小塚の親友たちのイメージカラーでもあり、その青を通じて、彼らとの絆や感情が作品に具現化されていた。絵本の中に描かれた猫も、その象徴として登場していた。
Courtesy of SHINYAKOZUKA
20年前の自分と今の自分を結びつけながら、「当時の想いを見て欲しいのではなく、今の自分のアティテュード(姿勢)を感じて欲しい」と語る小塚。彼の言葉からは、過去の経験や友情を大切にしつつも、現在の自分にしかできない新たな表現を追求している姿勢が伺える。単なる懐古や再現ではなく、過去と現在を織り交ぜた新しい挑戦であり、今だからこそ生み出せる独自の視点と表現力が存分に発揮されたコレクションであった。
ミツル オカザキ(MITSURU OKAZAKI )は、原宿のギャラリー「プラット(PLAT)」をショー会場に、2025年春夏 メンズコレクションを披露した。「狂気」と題されたこのコレクションは、デザイナー岡﨑満が感じた人間の「狂気的な瞬間」が服のディテールやスタイリングに強く表現されたもの。デザインの実験性が保たれながらも、オーバーサイズのシルエットや洗練されたディテールが融合し、アバンギャルドなスタイルを作り出していた。
雨嵐のサウンドをBGMに、ファーストルックとして登場したのは、情熱の象徴とも言える鮮やかなレッドカラーのセットアップだ。足元には、血しぶきを浴びたかのようなシューズが組み合わせられ、生命力を感じるような強烈なエネルギーを放つ。
また今季の象徴的なディテールとして注目すべきは、細長い楕円型のカットアウトだろう。この大胆なデザインは、ジャケットやシャツ、パンツにわたってエレガントに取り入れられていて、カットアウトの整然とした形状がエレガンスを引き出し、エレガンスを突き詰めると狂気に変わっていく過程を巧みに体現しているようだった。
その他、ボタンの装飾を多用したルックも目を引いた。ジャケットやパンツに施されたボタンはつけ外しが可能で、ボタンをつけると綺麗めな印象に、あえて外すことでラフで抜け感のあるスタイリングも楽しめるようになっており、着用者に自由な解釈を促してくれる。
嵐が過ぎ去り、静寂と共に現れたのは、ショーの最初に登場した赤のセットアップと同様のデザインの真っ白なバージョンだ。狂気的な雰囲気から始まったムードは一転し、小鳥の囀りが会場を包み込む。純粋さと穏やかさが感じられるこのフィナーレは、まるで全てがリセットされたかのような清涼感をもたらした。
Courtesy of ©JFWO
2024年4月に誕生したばかりの新ブランド「マーカス コビントン(MARCUS COVINGTON )」は、今季、楽天ファッションウィーク東京に初参加し、その存在感をアピールした。
「SMASH!!!! 日常を本気にさせるフルスロットルな目立ちたがり屋」というテーマのもと、ショー会場はアップテンポなBGMに包まれ、観客が見上げるように設置されたランウェイがセンセーショナルな雰囲気を醸し出す。
コレクションはオーバーサイズのジャケットとパンツが中心となり、全体にスポーティーな印象を持たせているが、インナーには繊細なシースルーのレースが大胆にあしらわれ、スポーティーさとフェミニンさが融合したスタイルが展開された。カラーパレットには、ブラックやネイビーの落ち着いた色調に加え、シルバーやゴールドの光沢素材が加わり、さらにクリームやイエロー、ピンクなどのパステルカラーが春夏らしい明るさを演出。
ジャケットやパンツは、多数のベルトや紐、ジッパーで装飾されており、ダメージ加工や破れたヘムラインが施されることで、戦闘服のような前衛的な印象を与えると同時に、心身を守る防具としての機能も感じさせていた。
Courtesy of MARCUS COVINGTON
同デザイナーの市川マーカス知利は、このコレクションに、母親代わりだった祖母の死、デザインとの対峙、そして対人関係で生まれた”激しい感情”を込めたという。その言葉通り、過激さ、楽しさ、優しさなどが入り混り、さまざまな想いが衣服に息づいているように感じられた。