東京コレクション 2024年春夏 総まとめ|カナコサカイ 初のランウェイショーから、注目のデザイナーまで

OSF Main 4

楽天ファッション・ウィーク東京(以下、東コレ)が、主会場の渋谷ヒカリエ、表参道ヒルズを中心に8月28日〜9月2日の6日間に渡って開催された。期間中50ブランドが参加し、デジタルとフィジカルで2024年春夏コレクションを発表した。

「日本ファッション・ウィーク推進機構(以下、JFWO)は、2024年の1年を通じて掲げる大きなテーマとして「OPEN, FASHION WEEK」というコンセプトを発表。コロナ禍を乗り越え、マスクから解放された後の第2回目となる今シーズン。JFWOによると、過去数年のファッションウィークと比較すると、インターナショナルの参加ブランドやショーに来場する海外からのゲスト数も増え、活気が戻ってきたという。また、「グローバルな発信力の強化」と「デジタルとフィジカルの融合」に注力を注ぎ、これまでよりも解放感がある幅広いコンテンツの展開や、一般客も参加出来るイベントの実施など、シームレスで多様性のあるファッションウィークが開催された。

この記事では、今シーズン華々しくランウェイデビューを飾ったデザイナーのカナコ サカイを筆頭に、今注目のデザイナーたちによるランウェイコレクションをハイライトとして紹介する。

カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)

今季の楽天ファッション・ウィーク東京は、デザイナーのカナコ サカイが手がける「カナコ サカイ(KANAKO SAKAI)」のコレクション発表から幕を開けた。同ブランドは、JFWOによるブランド支援プログラムのフィジカル部門「JFW NEXT BRAND AWARD2024」グランプリを受賞し、今回が初となるランウェイショー。

ニューヨークのファッション校名門パーソンズ・スクール・オブ・デザインでファションデザインを学び、そこから数年間何社かのデザイナーズブランドで経験を積んだあと、サカイが自分の名を冠したブランドを始動させたのは2021年のことだ。サカイは、多様な文化が入り混じるニューヨーク生活で改めて気付かされた日本に継承される美の感性を、各シーズンのコレクションへ落とし込み、唯一無二の洗練さを表現していく。

今回、初のランウェイショーで発表した2024年春夏コレクションは、まるで海に沈んでいた宝石箱を開けたような、煌めきが溢れるルックが詰まっていた。ショーの序盤ではホワイトを基調としたクリーンで洗練されたルックが続き、その後シルバー、ミント、ピンク、ブルー、レッド、ブラックなど多彩なカラーパレットに、キラキラしたラメやメタリックがアクセントとして輝きを放った。また、モデルが闊歩する度にしなやかに揺れ動くカッティングと立体的なテーラリングからは、サカイのクリエイションの技術力の高さが見受けられた。

1

2
©︎KANAKOSAKAI

デザイナーはこのショーのテーマを「ようこそ」と設定。その背景には、これまでルックブックでは伝えきれなかった側面を、ショーを通して360度の角度から深く知って欲しいという想いがあった。同時に、深海や宇宙などの未知なる場所の旅へ、向こうから招かれているようなミステリアスな感覚をかけたのだという。また、サカイがもう一つのテーマとして設定した「自由を纏う」というコンセプトは、ウェイメンズウェアでありながら、ランウェイを歩いたモデルの半数が男性だったところからも、彼女の中にある多様性への開かれたマインドが伝わるものだった。

ショーの中盤には、日本の伝統技術の一つである「藍染」のシャツが登場。大胆で色鮮やかなブルーの藍染されたシャツに、ラメを施したフリンジスカート、シルバーのメタリックブーツを合わせたルックは、陽の光で輝く波の情景を連想させた。

DSC07452
日本の伝統技術の一つである「藍染」シャツ ©︎KANAKOSAKAI

ショーのフィナーレには、貝殻を使った日本の伝統的な織物「螺鈿織り」で制作されたチェスターコートを披露。「螺鈿織り」ならではの、見る角度で変化する7色の光による神秘的な美しさが、観客らを魅了した。

DSC08039
フィナーレを飾った「螺鈿織り」を用いて作られたチェスターコート ©︎KANAKOSAKAI

サカイは、京都の日本海の海の綺麗さに感嘆し、「この海の煌めきを表現したい」と考えていたところに出逢ったのが、京都府の丹後地方の織メーカー「民谷螺鈿」だったと言う。「螺鈿織り」は、京都府の丹後地方に伝わる伝統的な織物の技法だ。貝殻の内側にある「真珠層」を薄く削り出し、シートに貼って糸状に細く切り刻み、緯糸として織り込んでいく工程を辿って作られる。また同様に、「藍染」も日本の伝統的な染色技法であり、藍の栽培、収穫、染料のもととなる「蒅(すくも)」作り、藍建て、染色という工程を経て完成する。

日本ならではの美しさは、「間」と「緻密さ」に宿ると語るサカイ。こうした自然との対話をしながら、手間と時間をかけて作られている「螺鈿織り」や「藍染」は、まさしく日本人の緻密さへのこだわり(アティテュード)がものづくりに反映された形なのだと言う。

またショーの後には展示会も開催され、実際にランウェイで披露されたコレクションを一つ一つ手に取ってじっくり見たい、という多くの関係者が足を運んだ。OSF編集部が、サカイに今後のデザイナーとしての展望を尋ねたところ、「KANAKO SAKAIというブランドの精神性を通じて、様々な異なる価値観やアイデンティティを持った人達と出会い、対話していきたい。だからこそ、グローバル展開を視野に入れていく。」と語った。

クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)

「クイーン アンド ジャック(Queen&Jack)」は、8月29日(現地時間)に、日本の気鋭のデザイナーとイタリアの職人達との共同制作コレクションを発表した。

2024年春夏コレクションは、ポジティブさとエレガントさが融合するスクールスタイルを基盤に、ギャザーやタックを施した立体的なシルエット、セーラーカラーやプリーツ、断ち切りのフリルを取り入れて、モードに昇華させたルックを披露。各ピースの随所にひねりがあるデザインが加えられており、デザイナーらの単なる一枚の服で終わらせないという精神と、素材、縫製、ディティール使いへのこだわりが伝わるものだった。

1 7

2 7
©JFWO

セヴシグ / アンディサイデッド(SEVESKIG /(un)decided)

「セヴシグ / アンディサイデッド(SEVESKIG / (un)decided)」は、8月30日(現地時間)、「IF WE BREAK DOWN THE WALLS(争いや分断などの障壁を取り払うことができたら)」をテーマに、東京キネマ倶楽部でランウェイショーを開催。

デザイナーの長野剛識は、世界中で起こる争いや分裂について自問自答を繰り返し、そうした争いごとへの内なる想いを2024年春夏コレクションに反映させてみせた。ダメージ加工が施されたデニムやレザーは、争いで出来てしまった傷を思い起こさせたり、大きな花が付けられたヘッドピースには、平和へ対しての祈りや願いが込められている様だった。

また、クロススティッチ、ギャザー、シャーリングなどは、伝統的な民族衣装や神話からインスパイアを受けて、加えられた要素だという。その他、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」とのコラボアイテムも発表された。

1 6

2 6
©JFWO

チノ(CINOH)

「チノ(CINOH)」は9月1日(現地時間)に、渋谷ヒカリエで2024年春夏コレクションのランウェイショーを開催。このコレクションは、「意図的に取り入れた機能性がデザインとなり、ディテールやシェイプをデザインすることで機能性が追加される」という、目的と異なる結果から生まれた「曖昧さ」を打ち出したものだという。

そのテーマをまっすぐに表現するように、各ルックでは、本来なら腕を通して切るべき袖が、マントの様な装飾になっているトレンチコートや、着脱時に開閉の機能を果たすはずのボタンが装飾としてつけられていたり、あらゆる箇所に、その「機能性とデザイン性の曖昧さ」であるパラドックスが反映されていた。キラキラのラメが光るシアー素材を用いたピースも印象的で、ブラトップや羽織り、ロングスカート、パンツなどが登場した。

今シーズンでブランドは、10周年を迎える。今回は3年ぶりのランウェイショーへの復帰であり、ファーストルックのモデルには世界的に活躍する樋口可弥子を起用したことでも、人々の注目を集めた。

1 4

2 4
Courtesy of CINOH

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

8月29日(現地時間)、「ハルノブ ムラタ(HARUNOBUMURATA)」は、東京国立博物館「法隆寺宝物館」にて2024年春夏コレクションを発表。1950年代に活躍したアメリカ人写真家、スリム・アーロンズ(Slim Aarons)が捉えてきた魅力的な人々のポートレート作品をインスピレーションに、「”AN INTIMATE PORTRAIT OF THE LIFE」を今季のテーマとした。

披露されたルックは、エレガントさと洗練さに、軽やかな抜け感が程よく調和されたモダンなデイリーワードローブ。白のジャージー素材のワンピースに、鮮やかなブルーのシルクコットンやシアーなチェックのニット、美しいグラデーションに染められたシルクなど、それを着る都会に住む自立した女性たちが持ち合わせている余裕や、人生を謳歌している姿が映し出されるようだった。また、多くのルックに合わせられた大ぶりの数珠状のゴールドネックレスは、ステイトメントとして目を引き、品格さに華やぎを加えた。

1 5

2 5
Courtesy of HARUNOBUMURATA

フェティコ(FETICO)

「フェティコ(FETICO)」が、9月28日(現地時間)に行ったランウェイショーでは、「Do Not Disturb」をテーマに、力強く魅力的な現代の女性達へ贈るセンシュアルなコレクションが発表された。今季のミューズとなったのは、1990年代のシンガーソングライターで俳優のフェイ・ウォン(Faye Wong)の、どこか挑発的であどけない彼女のスタイルと、デザイナーが3月に訪れたパリで手に取った、フランスの現代美術家ソフィ・カル(Sophie Calle)の「THE HOTEL」。

今コレクションでブランドは、レースやフリル、カットアウト、シアー素材をふんだんに用いて、女性の美しさ溢れる肌見せを提案。また、そうしたアイテムを重ねて着用することで、日常的に取り入れられるウェアラブルな親近感をスタイルに加えていた。

ショーの中では、アイウェアブランド「BLANC.」とのコラボレーションサングラスや、フェティコ初となるブランドのオリジナルバッグも披露された。

1 1

2 1
©JFWO

ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

9月2日(現地時間)、ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)は、「NEW TOWN NEW CAR」をテーマに、故郷や家族への想い、自身が育った平成初期のイメージを反映した2024年春夏コレクションを発表した。

ショーのオープニングには、スカート部分がラグビーボールのシェイプをした大胆なドレスが登場。それ以降は、ジャージーやメッシュ素材などを多用した、カジュアルながらもポップで遊び心あるスポーティールックが続いた。

ショーのフィナーレを飾ったのは、衝撃的な車の車体イメージした4つのルック。このコレクションの着想源には、デザイナーが幼少期に見ていた思い出の中の父親の車をイメージしたスタイルや、テスラの「Cybertruck」があるという。そんな昔と今が交差するイメージの中で、最後に登場したルックの床まである長いベールには、オオノの家族写真がプリントされており、ノスタルジックなショーの雰囲気を更に加速させた。

1 2

2 2
©JFWO

ヴィヴィアーノ(VIVIANO)

今シーズンの東コレで、9月2日(現地時間)の最終日にランウェイショーのフィナーレを飾ったのは、ヴィヴィアーノ(VIVIANO)だ。デザイナーのヴィヴィアーノ・スー(Viviano Sue)は、この2024年春夏コレクションを「Le Bel Été(美しい夏)」と題し、そのインスピレーションを、フランス南部の海辺の街ロシュフォールを舞台にした1967年の仏映画「ロシュフォールの恋人たち(Les Demoiselles de Rochefort)」から得たという。

ブランドを象徴するドラマチックなクチュールドレスには、ブルー、ピンク、イエローなどの明るくチアフルな色彩が溢れており、ボリュームのある何層にも重なったチュールのレイヤーが大きな存在感を放った。またブランド初となるデニム素材のルックでは、デニムにチュールのフリルを重ねてドレッシーさを出したり、すきっとしたセーラー襟でデニムが重く見えないデザインのトップスやジャケットを披露した。

ショーの最後は、モデル達がペアになってランウェイをスキップして跳び回り、観客達が思わず笑みを溢ぼすようなハッピームードで締めくくられた。

1 3
2 3
Courtesy of VIVIANO