楽天ファッション・ウィーク東京 2024年秋冬 ハイライト① ハルノブムラタ、ヨウヘイ オオノ、カナコ サカイなど

3月11日(月)〜3月16日(土)の6日間に渡り、楽天ファッション・ウィーク東京 2024年秋冬コレクション開催された。ショーのメイン会場には、例年同様、渋谷ヒカリエと表参道ヒルズが選ばれ、計43ブランドがフィジカルとデジタルそれぞれの形式の最新コレクションの発表を行った。

日本ファッション・ウィーク推進機構(以下、JFWO)は、2024年度の年間スローガンに「OPEN, FASHION WEEK」を掲げ、一般客も参加可能なイベントの開催や、グローバルに向けた発信を強めている。特に昨シーズンからは、東京のファッションシーンがコロナ禍から徐々に回復する兆しを見せる中で、インターナショナルブランドの参加や、海外からのゲスト数も増えるなど、活気を取り戻しつつある様子が伝えられた。

今シーズンはそうした多様性やグローバル市場を意識した訴求とともに、各ブランドが創り上げた「ショーの完成度の高さ」がとても印象的だった。デザイナーらは、服作りの本質をさらに探求しつつも、服そのものとエンターテイメント性を掛け合わせた斬新なプレゼンテーションを展開するなどの工夫が見られた。その中でも、いくつかのブランドは、グローバル市場で存分に戦える実力を見せつけていた。

本記事では、楽天ファッション・ウィーク東京2024年秋冬に参加した計43ブランドから、OSFが抜粋したデザイナーたちの最新コレクションを、ハイライトで紹介する。

エムエーエスユー(MASU)

「エムエーエスユー(MASU)」は、3月10日(現地時間)に、公式スケジュールに先駆けて、パリで発表した最新コレクションの凱旋イベント「Rakuten Fashion Week TOKYO 2024 A/W SPECIALON-SCHEDULE RECEPTION PARTY」を開催した。同ブランドは、JFWOが主催している「FASHION PRIZE OF TOKYO」で、第6回受賞ブランドに抜擢された実績を持つ。

薄暗いイベント会場に入ると、今年1月のパリ・ファッションウィーク中に行われた、2024年秋冬のショー映像「The Cinema」が上映されていた。客席にはエムエーエスユーのコレクションの魅力を余すことなく体現したマネキンが来場者に混ざって座っている。

「雨」をテーマにした今シーズンは、様々な素材や複雑なディテールを巧みに用いることで、その美しさと、刹那的なムードを表現。スタッズやチェーン、スパンコールなど、素材の輝きを活かし、スウェットには水滴のようなカッティングを施すことで、雨粒の儚い魅力がコレクションの深みのある色調に思慮深く反映されていた。

ペイデフェ(pays des fées)

3月11日(現地時間)に、渋谷ヒカリエの会場でショーを行った「ペイデフェ(pays des fées)」は、他のブランドとは一味違った風変わりな世界観を披露。ランウェイに現れたモデルたちは、木製のあやつり人形になりきり、手を広げ、辿々しく歩いたり、風船を片手に道化師のような奇妙な雰囲気を醸し出したりして闊歩する。

2014年にデザイナーの朝藤りむによって始動したペイデフェは、「奇妙でかわいい」をコンセプトに、毎シーズン、ディープなテーマを表現しつ続けているブランドだ。

そんなペイデフェが2024年秋冬コレクションで体現したのは、私たちが「思春期に肉体的な変化を遂げる過程で感じる戸惑いや葛藤」だった。

「Circle in Square」と題されたコレクションのショーノートには、「私たちは、思春期の肉体的な変化に伴う不快な成長期に、プラスチックのような無機物になりたい衝動を経験します。いつまでも記憶に残るこの短い一過性の時間(その経験を乗り越えられない気持ち)を、具体的なものに表現したい。」というメッセージが添えられ、「しかし同時に、その痛みを手当てるように装い寄り添うのが、今期のペイデフェでもあるのです」と、記されていた。

また上記に加え、インスピレーション源には、モダニズム運動が生んだ著名な詩人、北園克衛の「具体詩」も関係している。朝藤は、不安定な思春期特有の気分と、大正時代くらいの日本のダダイズムにある直線的なデザインに親和性を見出した。北園克衛の詩や写真がまさに無機質で直線的なディテールを持つ作品であり、それをオマージュするかたちで今回のコレクションを制作したという。

そうした着想源は、ケープ付きのAラインのコートや大きな襟のドレスに分かりやすく投影される。直線的なシルエットに、曲線を描く丸いプリントが採用され、対照的な形が一つに調和すると、朝藤が表現したかった繊細な心情が衣類に落とし込まれた。

また、丸や四角模様の中に描かれた「人の手」のグラフィックは、コラージュアーティストのQ-TAによるもの。今シーズンは、ブランドが通常見せる色鮮やかなカラーパレットと比べると、ネイビー、グレー、ホワイトなどベーシックな色合いが基盤となっているのも特徴的だった。

Courtesy of pays des fées

これまでにもペイデフェは、シュールレアリズムを鮮やかに描き出してきたが、今シーズンのコレクションはまるで、無機質なものに生命が宿ったかのような、より機械的で幻想的なものに昇華していた。その光景はまるで朝露を帯びた花々のように、肉感と温もりをじんわりと感じさせ、朝藤自身や匿名の無機的な存在を求める人々への慰めともなるかのようだった。

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)

ハルノブムラタ(HARUNOBUMURATA)は、3月12日(現地時間)に、原宿駅前の商業施設「jing」にて、2024年秋冬のショーを行った。日本人デザイナーの枠を超え、「グローバル・スタンダード」の代表格として異彩を放つハルノブムラタは、その洗練されたミニマルなデザインと一流の素材使いで、圧倒的なエレガンスを表現し続けているブランドだ。

そんな同ブランドの最新コレクションで、デザイナーの村田晴信は、20世紀ドイツの写真家であるアウグスト・ザンダー(August Sander)の「舞踏会に向かう三人の農夫(THREE FARMERS ON THEIR WAY TO A DANCE)」から着想を得た。ザンダーが1914年に撮影したこの象徴的な写真には、ヨーロッパ中が長引く第一次世界大戦の不安と恐怖に駆られる中で、着慣れないスーツに身を包みながら堂々とカメラを見つめる、三人の若い農夫の姿が映し出されている。不慣れな盛装をして舞踏会に向かう三人の眼差しからは、先行きの分からない不安定な時代にも、生きる喜びを見出そうとする前向きな心情が伝わってくる作品だ。

村田は、この人間味溢れる農夫たちの装いを、ボリュームたっぷりのダブルフェイスのウールコートに映し出した。リラックス感のあるオーバーサイズのシルエットは、重厚感のある見た目とは裏腹に、歩く度に流動的なゆらめきを魅せる。また、厳しい寒さに立ち向かうワーカーの風格は、モヘアのボアや圧縮されたニットを取り入れることで表現され、ブランドのモダンなエッセンスと見事に融合する。

Courtesy of HARUNOBUMURATA

コレクションのカラーパレットは、穏やかなグレーとブラック、深みのあるバーガンディー、光沢なモスグリーン、華やぎを添えるイエローやホワイトといった色彩が特徴的。単一のカラーを主体とするそれぞれのアイテムには、取り外し可能なゴールドプレートのディテールが、独自のアクセントとして加えられていた。

最新のレザーバッグ「CONSTANTIN」は、美しい曲線を描き、腕にそっと抱かれると、それはまるで大切な秘密を運ぶ贅沢な彫刻品のような佇まい。一方、「BAUER」と名付けられた新しいシューズは、古き良き農夫の木靴からインスピレーションを得て生まれたもので、木とモヘアの組み合わせは、冬の日に足元の心地よさと温かみをもたらしてくれるアイテムだ。

Courtesy of HARUNOBUMURATA

農民の努力の結果、都市は繁栄し、労働者はさらにその発展に貢献した。やがて、表裏一体の退廃が現れる。ハルノブムラタの2024年秋冬コレクションは、現代的な華やかさを反響させ、シンプルさから派生する人と人とのつながりの本質を包含している。

タナカダイスケ(tanakadaisuke)

2024年3月13日(現地時間)、タナカダイスケ(tanakadaisuke)は、メイン会場の渋谷ヒカリエにてランウェイショーを開催した。デザイナーの田中大資は、東京ファッションウィーク推進機構(JFWO)と東京都が共催する「東京ファッションアワード2024(TOKYO FASHION AWARD 2024)」を受賞し、今回のショーでは、JFWOから渋谷ヒカリエの使用料などの支援を受けた。また、母校である大阪文化服装学院からもショー開催に向けたサポートが寄せられた。

今シーズンのタナカダイスケは、「MEMORIES」をテーマに、幻想的でロマンチックなコレクションを披露。「あの頃目を輝かせて集めていたものにもう一度出会う。子どもの頃おもちゃ箱に集めていたものは、お人形やビーズ、キラキラしたビーズやスパンコール。細かいパーツたち」とショーノートに記されていたように、田中の幼少期の思い出を体現すべく、客席の足元には煌めく星やスパンコールが散りばめられ、またランウェイの天井からはスパンコールが降り注いだ。

そんな田中の回想を彷彿とさせる、お人形やビジュー、輝くスパンコールに彩られたルックの数々は、観る者までも魔法にかけ、中世ヨーロッパの宮廷に身を置いたかのような気分にさせてくれた。

2024年秋冬コレクションで、田中が挑戦したのは、これまでのモノトーンやブラウンから脱却し、「ピンクへの憧れを強調すること」。ショーのファーストルックでは、フリルがあしらわれたスイートなベビーピンクのオールインワンが登場し、その後もペールピンクのメンズスーツやフリルドレスなどが披露され、ロマンチックなムードに拍車をかけた。

ショーの中盤には、鮮やかな赤いヨーロピアン風ジャケットに、ターコイズとホワイトのフリルが目を惹くレイヤードドレス、大胆なベロア地のカットアウトが特徴的なチャコールドレス、チェーンなどのアクセサリーでエッジを効かせたセットアップスーツなどが登場し、「タナカダイスケの世界」に住む多様なキャラクターが姿を見せた。

また、各ルックに見られるディテールへの徹底的なこだわりも際立ち、フリルやレース、輝きを放つラメが織りなすその緻密な美しさは、観客の心を魅了し、細部まで拡大して凝視したくなるほど。

Courtesy of daisuketanaka

「僕の色褪せない「ときめき」を「憧れ」をラッパーのように自分自身の経験や視点から紡ぐことが今の自分に必要なのかなと思いました」と語る田中大資。

私たちの心に「ときめき」と「憧れ」を呼び覚ました煌めくコレクションは、まるで子供の頃に夢中で遊んでいただおもちゃ箱をひっくり返したかのような幻想的なものだった。

ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)

ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)は、 3月13日(現地時間)に、六本木の泉屋博古館東京でショーを開催した。昨シーズンは、「NEW TOWN NEW CAR」をテーマに、故郷や家族への想い、自身が育った平成初期のイメージを反映したスポーティーで独特なルックを数々披露したが、2024年秋冬では「大人へ向けたクラシック」をテーマに、イメージを一変。

ランウェイでは幅広い世代のモデルを起用し、年齢問わず着用出来る、構築的でクラシカルな雰囲気のドレスを提案した。

Courtesy of YOHEI OHNO

またブラック、ホワイト、ベージュで展開されたトレンチコートは、オーバーサイズでドレープが効いている動きのあるデザインが特徴的。コレクション全体を通して、リラックスしたシルエットが基盤となり、モデルが闊歩するたびに素材の軽やかさが際立った。

Courtesy of YOHEI OHNO

デザイナーの大野陽平は、自身のブランドが10周年を迎える一方で、依然として「ラグジュアリーや大人の世界に対して、自分はまだそこに入りきれてないという自覚を感じている」と告白。これまでの10年間で得た経験を振り返りながらも、まだ大人になりきれていない自分の姿を正直に表現することが、彼のこのコレクションのテーマでもあったのだ。

そんな大野が作り上げた「大人の世界」「ラグジュアリーさ」には、子供っぽい遊び心も時折加えられていた。それは、スポーティーなドレスのスカート部分の翻りであったり、腕や胸のモチーフに大ぶりのゴールドチェーンを付けたハンドバッグであったり、昨シーズンのコンセプトを引き継いだ車を連想させるハイヒールなどだ。

こうした大野らしい斬新なアクセントが加わることで、各ピースを王道のエレガンスで終わらせずに、独自の魅力とエッセンスで独創的な存在へと変容させていた。

Courtesy of YOHEI OHNO

フェティコ(FETICO)

フェティコ(FETICO)は、3月13日(現地時間)に、東京国立博物館の表慶館で2024年秋冬のショーを行った。「永遠のお気に入り(Eternal Favorites)」と名付けられたこのコレクションでは、デザイナーの舟山瑛美によって、彼女が本能的に惹かれるエッセンスが詰め込まれた。

ショーが幕を開けると、ファーストルックに登場したのは、ダークなメイクに、大ぶりの黒いリボンを髪に飾った修道女のようなモデルだった。身に纏っているロングドレスには、胸元部分に十字の切り込みが入る。その後のルックにも同様に、ドレスの胸元や、トラウザーのサイド、ボディスーツの袖と背面などに十字架の切り込みが施されていた。

コレクションの主役として採用されたのは、ゴシックな世界を表現するのに欠かせないベルベット生地だ。肩にフリルをあしらったジャケットやクロスカットのドレス、ゴシック調の刺繍のビスチェやスカートなどに使用され、たおやかでありながらも強い存在感を漂わせた。また、モデルたちは、黒いベールを頭に被ったり、首元にブランドモノグラムを連想させるチョーカーを身につけるなどして、際立つアクセントが添えられていた。

舟山は幼い頃からベルベットのドレスや、レース、フリルがあしらわれた子ども服を好み、ヴィクトリアン・ゴシック様式のインテリア、モノクロームのアートやフェティッシュなスタイルに惹かれてきたという。今回のコレクションで魅せたダークなゴシック調の世界観は、1991年に放映された映画「アダムス・ファミリー」に登場する長女のウェンズデーからインスピレーションを得たもの。

「小さい頃に見た映画『アダムス・ファミリー 』のウェンズデーは、キラキラした可愛い女の子たちとは何もかも違いました。自分のスタイルを貫く彼女は、残酷で陰湿なのにどこかチャーミングで魅力的で、人と異なることを恐 れない強さを教えてくれたのです。」

「好きなものを大切にすることは、自分自身を大切にしていることと同じ。好きなことに素直な自分はより愛しく思える。お気に入りと共に人生を歩むことは、何より幸せなことだから」と、舟山は語った。

ショーの中盤以降では、チュールのベビードールブラウス、ネグリジェのようなキャミソールドレス、ガーゼのシャーリングドレスも登場し、ロマンチックなランジェリーディテールが見られた。また、シャーリングやギャザーで体の曲線を強調するシルエットや、透け感のあるニットなどからは、女性の身体を美しく見せることに重きを置いている「フェティコらしさ」が全面に感じられた。

Courtesy of Fetico

カナコサカイ(KANAKO SAKAI)

カナコサカイ(KANAKO SAKAI)は、3月13日(現地時間)に、メイン会場の渋谷ヒカリエにて、2024年秋冬コレクションを開催した。

同ブランドは、『大人の女性の為の日常の戦闘服』というコンセプトで、クリーンで、洗練されたテーラードルックなどを主に発表していた。またランウェイモデルには、ウィメンズラインにメンズモデルを採用し、ジェンダーに囚われることのない自由なアプローチを追求してきた。

しかし、規則的なドラム音が鳴り響くランウェイで、サカイが今シーズンに披露したのは、強く挑発的な「女性的」な要素だった。それは、コーンブラが鋭く突き出る暈色のビスチェに、ハート型にカットアウトしたレザーやラメ素材のパンツのショーツなど。これまでにサカイが表現することのなかった、セクシュアルを強調したピースがいくつも登場した。

サカイは、2024年秋冬コレクションの着想源を、ある時ふと手に取ったマリリン・ ヤーロム(Marilyn Yalom)の『乳房論』から得たという。

「乳房は、時に乳児を養うものであり、時に男性に欲望されるものであり、あるいは 時に、法のもとで隠すよう強いられるものであった。女性のものであるはずが、つねに「誰かのもの」であった」「自分の選択が実は自分本来の希望ではないことに気がつかぬまま、他の人を楽しませるために商品 を選んでいる」という、ヤーロムの主張を知り、サカイの中に、「『女性性』は、そもそも社会によってかたち作られてきた。 いや、『女性性』限ることもない。自分という存在は、つねに他者によって規定されてきた──日々生活 するなか、そう感じる人も多いのではないだろうか」といった疑問が湧く。

そうした問いへ答えを見出すべく、サカイはこのコレクションを通して、社会の風潮から苦手意識がいつの間にか作られ、知らぬ間に自分が避けてきた「女性性」 に、向き合うことを決心したのだ。

そんな新しい感性をコレクションに吹き込んだ一方で、カナコサカイの日本の伝統やものづくりに対する揺るぎない情熱も、随所に見られた。例えば、メタリックなテーラリングコートは、京都の丹後から取り寄せた民谷螺鈿「焼箔」の織物で作られている。また、煌めきを放つニーハイブーツやミュール、ネクタイには、日本の伝統的な家紋柄が採用されていたり、しゃらしゃらと揺らめくイヤーアクセサリーには、千羽鶴のモチーフが並んでいたりした。

Courtesy of Kanakosakai

カナコサカイがこれまで培ってきたテイストを大切にしつつも、自身の苦手としていた「女性性」や「セクシュアル」な要素を克服し、形にすることで、ブランドの美学に新たな息吹を与えたのが、最新コレクションだ。日常のルックを華やかに彩る洗練されたアイテムが数多く揃い、新たなる魅力が光っていた。