ニューヨークのブルックリン美術館(Brooklyn Museum)が、1,000万ドルの財政赤字に直面し、大規模なコスト削減策を発表した。ブルックリン美術館は、6月までに最大1,000万ドルに達する可能性のある財政赤字を緩和するため、全従業員の10〜13%にあたる40人以上の解雇、年間展示数の削減、夜間イベントの中止などを実施する。
急激に膨らむ運営コストと財政赤字
2月6日(現地時間)、美術館の館長であるアンネ・パスターナック(Anne Pasternak)は職員宛の書簡で、「当館は強い逆風に直面しています。インフレが運営予算に大きな影響を与え、日常的なコストを数百万ドル単位で増加させ、資金調達のペースを上回っているのです」と述べたという。さらに、パンデミック後の来館者数の回復が遅れていることも、財政状況を悪化させる要因となっているようだ。
こうした現状を受け美術館側は、上級管理職の給与を10〜20%削減するほか、年間の展示数を12回から9回に減らし、来場者数が少ない、もしくは安定した資金が確保できない夜間イベントを中止する方針を示した。パスターナックは「より単純に言えば、当館の支出は収益よりも急速に増加しています。このため、プログラムや運営体制、チームの規模に変更を加え、長期的な持続可能性を確保する必要があるのです」と述べた。
労働組合側の反発と交渉の行方
解雇は美術館の複数の部門にわたり、労働組合員・非組合員の両方を対象とする。これを受け、ブルックリン美術館の労働組合Local 1502(American Federation of State, County and Municipal Employees傘下)の代表であるウィルソン・スーフラン(Wilson Souffrant)は、「美術館が財政の帳尻を労働組合員の犠牲の上で合わせようとしていることに失望しています」と批判した。
同組合は2月7日に停止命令(Cease and Desist)を発行し、管理職が労働組合と十分な交渉を行わずに解雇を進めることを阻止しようとしている。なお、パスターナックは、「契約に基づき、労働組合と交渉を行う意向」と述べたが、Local 1502側は「事前通知が不十分である」と主張しており、交渉の行方は不透明だ。
美術館の運営方針と収益モデルの課題
近年、ブルックリン美術館はパンデミック後の来館者数の減少を受け、収益回復を目指してさまざまな展示を開催してきた。2023年には、映画監督のスパイク・リー(Spike Lee)やアリシア・キーズ(Alicia Keys)&スウィズ・ビーツ(Swizz Beatz)のアートコレクション展示、ミュージシャンのポール・マッカートニー(Paul McCartney)の展示などが注目を集めた。しかし、これらの施策にもかかわらず、過去10年間で従業員給与総額が1,700万ドル増加し、支出が依然として収益を上回る状態が続いている。
また、同館の基金総額は1億7,520万ドル(2023年6月時点)であり、MoMA(ニューヨーク近代美術館)の約17億5,000万ドルと比較すると規模が小さい。さらに、来館者の半数以上を占める地元住民に対し「希望額支払い制」を導入しているため、収益の増加に限界があるようだ。
ブルックリン美術館は、近年パレスチナ支援デモの拠点となっており、昨年春には敷地内での抗議活動中に34人が逮捕される事態も発生した。警備員への暴行や展示品の損壊も報告されており、美術館の管理体制にも影響を与えている。その後、パスターナックの自宅や他の美術館幹部の自宅がデモ参加者によって破壊される事件が発生し、複数名がヘイトクライム(憎悪犯罪)として起訴される事態に発展した。
一方、今回の解雇発表の中で、美術館側は2026年に予定されている「アフリカ美術コレクションの改装プロジェクト」は継続する方針を示した。
パスターナックは「給与は当館の最大の運営コストであり、運営予算の約70%を占めています。このため、財政の再調整には人員削減が避けられないのです」と述べており、さらなる財政健全化のための施策が求められている。
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