4月11日(現地時間)、ファストファッションのシーイン(Shein)は、ロンドン証券取引所での新規株式公開(IPO)に向け、英国の金融行動監視機構(FCA)から予備承認を取得したことが明らかになった。これは、同社が昨年ニューヨーク上場を断念して以降、ロンドン市場への軸足を移した結果として、上場への大きな一歩となる。
英当局は承認、中国の最終判断は未定
FCAによる承認は、IPOに必要な目論見書(プロスペクタス)の内容が同機構の基準を満たしていると判断されたことを意味する。もっとも、今回の承認は「予備的な」承認であり、実際の上場にあたっては、提出書類の更新や再承認が必要となる場合もある。関係者の一人によれば、「FCAの予備承認は時間制限があるわけではないが、重要な変更が加わる場合には、再提出と新たな承認が求められる」という。
だが、ロンドン市場での上場を完了させるには、中国証券監督管理委員会(China Securities Regulatory Commission:CSRC)をはじめとした中国当局からの承認も必要とされる。CSRCは、すでに暗黙の了解として上場地の変更を認めているとの報道もあるが、最終的な認可については中国国務院など、より高位の機関が判断を下すとみられている。
トランプ政権の政策がIPOに暗雲
ここで重くのしかかってくるのが、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領による中国への制裁措置だ。トランプは2025年4月、中国および香港からの小口輸入に適用されていた「デミニマス制度」を撤廃し、これまで免税だった800ドル未満の配送に対しても関税を課す大統領令に署名した。デミニマス制度は、800ドル未満の海外からの小口配送に対して関税や税金が免除される仕組みであり、シーイン、テム(Temu)、アマゾン(Amazon)といった越境EC企業にとっては、低価格での直接販売を可能にする基盤であった。
さらに、中国からの輸入品全体に対して90%〜145%の高関税を課す方針を示しており、これがシーインの最大市場である米国におけるビジネスモデルを揺るがしている。
このような政治的・経済的な不透明感の高まりを背景に、2025年前半に予定されていたIPOスケジュールは後ろ倒しとなる可能性が高い。また、シーインは2023年の資金調達時には評価額660億ドルとされたが、現在は300億ドル台への見直しを求める声も一部投資家から上がっている。
労働環境への懸念とFCAの対応
もう一つ、シーインの上場を巡って焦点となっているのがサプライチェーンの倫理問題である。
特に、新疆ウイグル自治区における強制労働の疑惑は国際的にも大きな懸念材料となっており、英国でも政治家の間で「上場をブロックすべきではないか」という声が上がっていた。
FCAは、シーインの目論見書にこれらのリスクが十分に開示されていると判断し、予備承認を出したとみられる。ただし、FCAは内容の真偽までは保証しない立場であるため、仮に後から虚偽や重大な情報の欠落が判明すれば、投資家からの訴訟や当局による制裁の対象となる可能性もある。これに対し同社は、これまで繰り返し、「強制労働および児童労働に対してはゼロ・トレランスの方針を貫いている」と公式に表明してきた。
ロンドン上場に向け、少しずつ駒を進めているシーインであるが、その道のりは、地政学的な緊張と倫理的な透明性の問われるビジネス構造という、2つの大きな壁を乗り越えられるかどうかにかかっている。
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