ニューヨークを拠点とするファッションブランド「アレキサンダー ワン(Alexander Wang)」が、メットガラ(Met Gala)2026を舞台に、ブランド初のエナジードリンク「Real:ly」を発表した。本発表は単なる新商品ローンチにとどまらず、ファッション、テクノロジー、ウェルネス、そして消費体験を横断する、ブランド領域の戦略的拡張として位置づけられている。
ヒューマノイドロボットが運んだ、ブランド史上初のドリンク
発表の幕開けとなったのは、メットガラ前夜の5月3日(現地時間)。創業者兼クリエイティブディレクターのアレキサンダー・ワン(Alexander Wang)本人が、滞在先のザ マーク ホテル(The Mark Hotel)を後にする際、傍らに付き添ったのは中国・上海を拠点とするエンボディドAI企業アジボット(AGIBOT)が開発するヒューマノイドロボット「AGIBOT A2」である。胸には「Real:ly」のロゴ、手には缶入りスパークリングティーが携えられていた。
エンボディドAI(身体性AI)搭載の全身型ヒューマノイドロボットがメットガラに登場するのはこれが史上初であり、ファッションとテクノロジーの境界を再定義する瞬間となった。AGIBOT A2は人間と同等のプロポーションを持ち、安定した二足歩行と複雑な環境下での自然な対話・物体操作を可能とする。今回はメットガラ前夜の人混みのなかで、ゲストへのドリンクの受け渡しまで自律的に遂行したという。

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ワン自ら缶を手にレッドカーペットへ
翌5月4日のメットガラ当日には、デザイナー自身が「Real:ly」の缶を手にレッドカーペットに登場。その場で実際にドリンクを口にすることで、プロダクトのリアリティと存在感を強く印象づけた。
「Real:ly」は、アジアの茶文化に着想を得たナチュラルカフェインを採用するスパークリングティー型のエナジードリンクである。ヘリテージ、ウェルネス、現代的なパフォーマンスを接続するコンセプトのもとに開発され、2026年5月8日より、北米のアレキサンダー ワン直営店にて限定販売される予定だ。
イリーナ・シェイクが纏った「アーカイブ」
メットガラのレッドカーペットには、スーパーモデルのイリーナ・シェイク(Irina Shayk)が、アレキサンダー ワンによるカスタムルックを着用して登場した。
「纏うアーカイブ」というコンセプトのもと制作された同ルックは、シュルレアリスムの美学を取り入れつつ、機能的なオブジェクトを衣服として再解釈したものである。チェーンは縫い目へ、クラスプはステッチへと置き換えられ、衣服の構造そのものが再定義されている。時計は単なる留め具ではなく、身体を強調する象徴的な要素として配置された。


カスタムハードウェアと多層的に重ねられたジュエリーが相互に作用し、装飾と構造の境界を曖昧にする彫刻的シルエットを形成。制作には200時間以上が費やされており、あえて露出されたメカニカルな構造が時間の流れや美の変遷を想起させる設計となっている。衣服という枠組みを越えた、コンセプチュアルピースとしての完成度の高さが際立つ仕上がりだ。
ファッションを越境するブランド戦略
今回の一連の発表は、アレキサンダー ワンにとって単なる新商品ローンチではない。「ファッションブランド」という枠組みそのものを広げる戦略的なアクションだ。今年のメットガラのテーマが「コスチューム・アート(Costume Art)」であったことを踏まえれば、テクノロジー(ロボット)、F&B(ドリンク)、ファッション(イリーナ・シェイクのルック)の三領域を同じ舞台に並べた構成は、テーマへの完璧な回答だったと言える。
注目すべき点は3つある。
1つ目は、AGIBOT A2を選んだことの意味だ。世界には多くのロボティクス企業がある中で、ワンが起用したのは中国・上海発のスタートアップだった。アジア系アメリカ人デザイナーが、アジア発の最先端テクノロジーを世界最高峰のファッション舞台に持ち込んだ——この組み合わせ自体が、自身のルーツである東アジアを「発信源」として位置づける、明確な姿勢の表明である。
2つ目は、ドリンクの中身である。「Real:ly」のベースは、アジアの茶文化に着想を得たナチュラルカフェイン。ワンは2025年にも、中国の人気ティーチェーンHEYTEAとフラッグシップ店でポップアップを開催している。今回のドリンクは思いつきの一手ではなく、「アジア発のウェルネス」というテーマをブランドが段階的に積み上げてきた延長線上にある計画的な布石だ。
3つ目は、F&B参入そのものが持つ戦略性である。ルイ ヴィトンのショコラ事業、プラダの建築・カフェ事業、ティファニーのブルーボックス カフェなど、ラグジュアリーブランドが「服やバッグの外側」で顧客との接点を持とうとする動きは、近年明らかに加速している。アレキサンダー ワンも、服を買わない日でもブランドに触れられる仕組みを整え始め、日常に溶け込むドリンクは、その入り口として極めて有効である。
ファッション、テクノロジー、ウェルネス、そして消費体験。これら四つの接点を一夜に再構築した今回のアクションは、ラグジュアリーブランドのIPマネタイズが新たな段階に入ったことを示唆している。
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