メットガラ(Met Gala)2026:アートを纏ったセレブたち、そのインスピレーションの源を読み解く

Met gala 2026
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ニューヨークのメトロポリタン美術館に、煌びやかなスポットライトが降り注ぐ夜。5月4日(現地時間)、メットガラ(Met Gala)2026のレッドカーペットに姿を現したゲストたちは、それぞれの解釈で「Fashion is Art」というドレスコードを体現した。

今年のコスチューム・インスティテュート(The Costume Institute)による展覧会「コスチューム・アート(Costume Art)」にちなんで掲げられたテーマのもと、衣服と身体、そしてアートの関係性が静かに問いかけられる一夜となった。

本記事では、名画や彫刻、そして多様な芸術表現に着想を得たルックに焦点を当て、それぞれのインスピレーションの源を読み解いていく。

名画を絵画として纏う 

この夜、ロゼ(ROSÉ)がサンローラン(Saint Laurent)のドレスで引用したのは、ジョルジュ ブラック(Georges Braque)晩年の代表作「《鳥たち》(The Birds, 1953)」だ。ブラックはキュビスムを離れた最晩年に、自由と超越の象徴として鳥のモチーフへと向かった。

ロゼはこのフォルムだけを抽出し、漆黒のドレスのコルセット部分に銀の粒で再構築。原画の青地から色を剥ぎ落とすことで、形象そのものに視覚的な集中を見出した。

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エマ チェンバレン(Emma Chamberlain)のドレスは、フィンセント ファン ゴッホ(Vincent van Gogh)の二作《アルルの庭》(The Garden at Arles, 1888)や《星月夜》(The Starry Night, 1889)が一着のうえで邂逅したようなデザインだった。胸元から腰にかけては野原の黄と緑、裾に向かって渦巻く青の夜空。手描きを思わせる絵肌と、ゆらめくフリンジが筆触のエネルギーを動きへと変換する。これはもはやドレスというより、身体に張られた一枚のキャンバスのよう。

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ベン プラット(Ben Platt)は、ジョルジュ ピエール スーラ(Georges-Pierre Seurat)の《グランド ジャット島の日曜日の午後》(A Sunday Afternoon on the Island of La Grande Jatte, 1884–86)をジャケットとして再構成。点描という技法をビーズ刺繍へと媒体置換し、絵のなかからパラソルを差す婦人が衣服へと移動してきたかのような構図を生んだ。技法そのものを翻訳するという、最も知的な引用のひとつだ。

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彫刻としての身体 

ハイディ クルム(Heidi Klum)が引用したのは、ラファエレ モンティ(Raffaelle Monti)による《ヴェスタの巫女》(Veiled Vestal, 1850s)。モンティは、大理石を彫りながら透けるヴェールを表現する19世紀彫刻の超絶技巧で知られる。クルムは「石の上の薄布」というイリュージョンを、本物の布と白く塗られた肌で逆翻訳。彫刻の幻影を素材の格上げによって再現するという、メタ的な視点が光る一着だった。

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カイリー ジェンナー(Kylie Jenner)が選んだのは、ヘレニズム彫刻の最高峰、ルーヴル美術館(Musée du Louvre)所蔵の《サモトラケのニケ》(Winged Victory of Samothrace, c. 190 BC)。風を受けて前進する女神の”濡れドレープ”、そして薄布を通して身体の輪郭が透ける古代彫刻の表現をヌーディーなボディスとローライズのサテンドレープで再現。古代の動勢を、現代のシルエットへと翻訳して見せた。

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肖像画から物語へ 

アンジェラ バセット(Angela Bassett)が参照したのは、ハーレム ルネサンス(Harlem Renaissance)の重要画家ローラ ウィーラー ワリング(Laura Wheeler Waring)の《ピンクのドレスの少女》(Girl in Pink Dress, 1927)。1920年代は、黒人女性画家が黒人の少女を主役として描くこと自体が、静かでありながら確かな抵抗だった。バセットがピンクのガウンに花の装飾をまとうとき、それは衣装選択を超え、美術史に書き残されるべき女性たちへの敬意の表明となる。

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ハンター シェイファー(Hunter Schafer)は、グスタフ クリムト(Gustav Klimt)の《メーダ プリマヴェジ》(Mäda Primavesi, 1912頃、メトロポリタン美術館蔵)を引用。当時9歳の少女の白いワンピース姿を、シェイファーは大人のシルエットへと翻訳した。グレーの花柄パネルとフリル裾は、クリムト後期の装飾的画面を立体へと展開する読み替えである。

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レイチェル ゼグラー(Rachel Zegler)が引用したのは、ポール ドラローシュ(Paul Delaroche)の《レディ ジェーン グレイの処刑》(The Execution of Lady Jane Grey, 1833、ナショナル ギャラリー所蔵)。”9日女王”と呼ばれた16歳のジェーン グレイが処刑される瞬間を描いた歴史画だ。白いドレスと目隠しでその一瞬を直接的に再現したゼグラーは、視覚的な美しさのみならず、無垢と権力という重いテーマを身体のうえに持ち込んだ。

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自己引用とシュルレアリスム

エイミー シェラルド(Amy Sherald)は、自身が2014年に描いた《ミス エブリシング(Unsuppressed Deliverance)》(Miss Everything, 2014)の主人公の衣装をそのまま再現。水玉のドレス、白の長手袋、赤いベレー、そして赤いダックスフントのバッグまで、画中の人物が現実に降り立ったかのような出で立ちだった。アフリカ系アメリカ人の肖像をグレースケールの肌で描き続けてきた現代画家が、自らの作品の登場人物として登場するという、究極の自己引用である。「描く側」と「描かれる側」の境界そのものを問う一着だった。

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マドンナ(Madonna)は、英国出身のシュルレアリスト、レオノラ キャリントン(Leonora Carrington)の《聖アントニウスの誘惑》(The Temptation of Saint Anthony, 1945)を、レッドカーペット全体をキャンバスとして演出。複数のアテンダントが両脇に薄いシフォンを広げ、彼女自身が画面中央の幻想的な存在となる構図を作り上げた。これは衣装ではなく、一枚の絵を空間として上演するパフォーマンスにほかならない。

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展示は5月10日から一般公開へ

なお、メットガラ 2026のドレスコードの源泉となった本年のコスチューム インスティテュート展「コスチューム・アート」は、5月10日(現地時間)に一般公開を迎える。会場は、メトロポリタン美術館の五番街本館に新設された約12,000平方フィート(約1,115平方メートル)のコンデ ナスト ギャラリー(Condé Nast Galleries / Gallery 99)。コスチューム インスティテュート春季展の恒常的拠点として誕生した同ギャラリーにとって、同展はこけら落としにあたる。

キュレーターのアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)が示するのは、ファッションを5,000年の美術史の文脈へと位置づけ直す試みだ。約200点の衣服と約200点の美術作品が一対となって並び、先史時代から現代までの絵画・彫刻・工芸品とコスチューム インスティテュートのコレクションが「衣服を纏った身体」というテーマのもとで再編成される。

なかでも特筆すべきは、本展に向けて新たに導入された、多様なボディタイプのマネキンである。メトロポリタン美術館の公式発表によれば、3Dプリンティング技術を用いて制作された一連のマネキンには、妊娠している身体、障害のある身体、高齢の身体、トランスジェンダーの身体など、美術史と従来のファッション展示の双方が周縁化してきた存在が含まれる。これは美術館にとって初めての試みであり、ファッションを”特定の理想化された身体”にひもづけてきた既存の展示文化に対する、明確な再考の表明だと言える。

この展示が強く問いかけているのは、結局のところ”誰の身体が、いかなる形式で美術史に記憶されてきたか”という根源的な命題である。レッドカーペットでゲストたちが個別に演じてみせた解釈は、このギャラリー空間において美術史の長尺へと拡張される。メットガラ 2026の真の余韻は、この展覧会のなかにこそ宿っている。

【Costume Art 展】

  • 会期:2026年5月10日〜2027年1月10日
  • 会場:メトロポリタン美術館 五番街本館 コンデ ナスト ギャラリー(Gallery 99)
  • キュレーション:アンドリュー ボルトン(コスチューム インスティテュート キュレーター・イン・チャージ)
  • 入場:美術館入館料に含まれる

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