マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)2027年春夏:「GRATITUDE」に込めた、過去への敬意と未来への希望

マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)2027年春夏

6月29日(現地時間)、「マーク ジェイコブス(Marc Jacobs)」は、ニューヨーク公共図書館にて、2027年春夏コレクションを発表した。

今シーズンのテーマに掲げられたのは、「GRATITUDE(感謝)」。ショーに先立ち公開されたステートメントでは、「人生の最も不確かな瞬間にこそ豊かさを見出し、困難の中には目的があり、変化の中には可能性がある」と語り、「創造とは感謝を表現する最も純粋な行為」であると綴っている。華やかなランウェイの裏側には、自身を形作ってきた人々や経験、そして数々のクリエイションへの敬意が込められた、極めてパーソナルなメッセージが存在していた。

「GRATITUDE」を未来へ向かうクリエイションとして表現

「感謝」というテーマから連想されるのは、温もりのある天然素材やノスタルジックなムードかもしれない。しかし、マーク ジェイコブスが提示したのは、そのイメージとは対照的なコレクションだった。

ランウェイに並んだのは、透明感のあるPVCシャツや光沢を放つビニール素材、シアーなドレス、エナメル加工やクロコダイル調のテクスチャーなど、人工的で未来的な質感を持つアイテムの数々。センシュアルなランジェリーライクなトップスやボディスーツを重ね、透け感を巧みに活かしたレイヤードによって、軽やかさと官能性を共存させた。

過去を懐かしむための「感謝」ではなく、これまで積み重ねてきた経験を未来へとつなぐための「感謝」。コレクションは、その前向きな姿勢を素材やスタイリングによって視覚化したようにも映る。

LOOK 10 BROOKE

Courtesy of Clint Spaulding
Courtesy of Clint Spaulding

30年にわたる美学へのオマージュ

また、今回のコレクションには、「Credits and Receipts」と題したリファレンスリストが添えられた。

イヴ サンローラン(Yves Saint Laurent)の1970年の「LOVE」コレクションをはじめ、『All That Jazz』(1979)、シャネル(Chanel)1993年春夏、イヴ サンローラン(Yves Saint Laurent)1993年春夏、ジュンヤ ワタナベ(Junya Watanabe)1996年春夏、そしてマーク ジェイコブス自身による1998年・2000年春夏コレクション、さらにプラダ(Prada)2007年春夏、ルイ ヴィトン(Louis Vuitton)2009年春夏まで、約30年にわたるファッション史が並ぶ。

これらは、マーク ジェイコブスが長年影響を受け、自身のクリエイションを築き上げてきたデザイナーや作品への敬意を示す「感謝」のリストであり、コレクション全体が過去の美学へのラブレターとして構成されている。

自身のアーカイブを含めて振り返る姿勢は、キャリアを総括するのではなく、未来へ向けて新たな一歩を踏み出すための土台を再確認する行為にも見える。

工業的な素材に宿るエレガンス

さらに、各ルックで目を引いたのが、PVCやビニール素材を用いた表現である。本来、こうした素材はスポーティーあるいは実験的な印象を与えやすい。しかしマーク ジェイコブスは、シフォンやシアーニット、ランジェリー、繊細なチェーンベルトと組み合わせることで、それらをオーガンザのように軽やかでエレガントな素材へと昇華した。

透明素材の内側から透ける色彩や異素材の重なりは、服そのものが持つ構造を際立たせるだけでなく、人の身体との新たな関係性を生み出している。

LOOK 1 YASMIN

LOOK 5 CHAPMAN

色彩で描く人生のグラデーション

今季のカラーパレットは、スモーキーピンクやダスティブルー、ブラウン、モーブといった落ち着いた色調から始まり、ショーが進むにつれて鮮やかなレッド、オレンジ、ターコイズ、ラベンダー、イエローへと移り変わる。そして終盤には、ゴールドやブラック、深みのあるグリーンが加わり、より力強い印象へと変化していく。

まるで人生の時間軸を色彩で描いたような構成は、タイトルである「GRATITUDE」のメッセージとも重なる。喜びや困難、変化と成長を経て積み重なった経験が、豊かな色のレイヤーとしてコレクション全体を彩っていた。

LOOK 4 CLAIRE

LOOK 17 SOFIJA

LOOK 23 HANNA

LOOK 31 JASPER

「見えない糸」を可視化したチェーンベルト

ほぼすべてのルックに共通して登場したチェーンベルトも印象的だった。

ショーステートメントには、「私の人生を支えてきた見えない糸(Invisible Threads of Structure)」という一節が記されている。

ランウェイに繰り返し現れたチェーンは、アクセサリーという役割を超え、その「見えないつながり」を象徴する存在として機能しているようだ。人との出会い、経験、記憶、そしてクリエイション。そのすべてが現在の自分を形作る土台となり、それらへの感謝を身に纏うような表現となっていた。

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Courtesy of Clint Spaulding

LOOK 12 VIVIAN

LOOK 15 PERUS

過去を抱きしめながら、未来へ進むコレクション

2027年春夏コレクションは、マーク ジェイコブスがこれまで歩んできたクリエイティブの軌跡を振り返りながら、その先にある新たな創造への意思を示したコレクションだった。

ブランドを巡っては、「LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH Moët Hennessy Louis Vuitton)」が、ブランドマネジメント企業「WHPグローバル(WHP Global)」への売却を発表し、新たな転換期を迎えている。

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Courtesy of Clint Spaulding

そんな節目に披露された「GRATITUDE」が語っていたのは、過去への敬意だけではない。これまで積み重ねてきた経験を糧に、新たな時代へ歩みを進める──そんな静かで力強い意思が、31のルックを通して示されていた。

マーク ジェイコブス 2027年春夏コレクションのすべてのルックは、以下のギャラリーから。

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