これまでの経緯
エルメスと NFTアーティスト、メイソン・ロスチャイルド氏のNFTのメタバーキンを巡る争いは止まらない。
前回の記事 OpenSeaに現れた100個限定のメタバーキン
簡単にこれまでの経緯を説明すると、デジタルクリエイターのメイソン・ロスチャイルド氏が、エルメスのバーキンと同じ形のバックを「メタバーキン」と名付け、NFTのマーケットプライスOpen Seaで100個限定で売り出した。
一時期高値で取引されていたが、それを知ったエルメスがブランドを侵害していると訴え、メタバーキンの取り下げをするようにロスチャイルド氏に申し立てをしたという流れだ。
そしてそれに対し、ロスチャイルド氏は「自分の作品は偽のバーキンを作って売ったものではなく、架空のバーキンを描いたアートワークを売っただけだ」と主張し、双方の意見がぶつかり、現在エルメスがロスチャイルド氏に対し訴訟を起こしているという状況である。
ブランドが持つ品位や希少性を保ちたいエルメス側の主張
今回エルメスがロスチャイルド氏を訴えた主張として、「メタバーキンはBirkinの名前を悪用したブランドの偽の商品と同様だ」また、「エルメスがメタバーキンと何らかの関係があると思われる可能性があり消費者に混乱を引き起こす」と述べている。
それに対しロスチャイルド氏は、「メタバーキンという名前が混乱を起こさないように、エルメスとメタバーキンは関係ないものだ、という免責事項を以前よりきちんと掲載している」と主張する。
エルメスはラグジュアリーブランドの中でもトップブランドに位置付けられるものであり、バーキンも簡単には手に入らない希少性のあるもの。それは、使用するレザーから実際にそれをスティッチする職人に与えるトレーニングという細部の部分まで高い品質を保って作られているというのが一つの理由だ。
しかしデジタルで作られる仮想の商品に関しては、こういった品質は関係なく売られることになってくる。
フォーダム大学のThe Fashion Law Instituteのアカデミックディレクターであるスーザン・スカフィディ氏は「デジタルの仮想な世界では、エルメスが主張する品質や商品の希少性を現実世界のような感じで売ることは出来ない。その代わりに、NFTを介して人工的にその希少性が確立されるのではないか」という意見している。
エルメスはメタバーキンを止めることは出来ないかもしれない
現在業界内では、「もしかしたらエルメスはこのメターバーキンをやめさせることは出来ないのではないか」という意見が上がり始めた。
NFTは今だかつて無い新しいものなので、NFTに関する法律がまだしっかりと定まっておらず、且つNFTは、通常のデジタル画像とは異なり、ブロックチェーン上にある所有権を証明する領収書のようなものだからだ。
専門家は「仮にエルメスが最終的に法廷で勝ったとしても、メタバーキンはブロックチェーン上に存在し続けるので、今すでに出回っているNFTを流通から外すことは困難だろう。一度NFTが作られると、エントリをブロックチェーンから消去することはできないので、可能性としてできることはNFTを「焼き付ける」ことである。これは、アクセスできないアドレスにNFTを転送することを意味する。しかし、エルメスがメタバーキンを燃やすことで決着をつけたとしても、裁判所がそうすることを許可するかどうかは簡単ではないだろう。」と述べる。
そして、エルメスが要求できるもう一つのオプションとしては、「メタバーキンをNFTのマーケットプレイスで販売できないように作品を落としてもらうこと」だと言う。
当初、このメタバーキンはOpenSeaで売られていたが、エルメスからの要請を受け、Openseaではすぐにメタバーキンを除外した。
そして現在はLooksRareなどの他のNFTマーケットプレイスで引き続き売られており、現在のメタバーキンは1月22日時点でLooksRarにて約3,600ドル相当で販売されていたようである。以前はOpenseaで約20,000ドルで取引されており、中には約46,000ドルの高値で取引されたもののあるので、こう見ると現在価格は大幅に落ちてしまった。
しかし逆に、今回この「エルメスVSメタバーキン」としての話題性ができたので、メタバーキンの価値がより今後上がる可能性があるのではと言う意見も強い。
そうなると、エルメスにとっては、「ブランドとしてイメージダウンに繋がる偽商品が取り出すことのできないブラックマーケットに出回り、しかし今回の話題性で偽物の価値が高まってしまう」という悪循環を呼ぶのではと専門家は語る。
大変複雑に見えるこのケースだが、一体このエルメスとNFTアーティストの戦いがどのように決着することになるのか、OSFでも引き続き情報を追っていく。