世界初のメタバースファッションウィークMVFWが開催
新しいテクノロジーが世に現れる度、どの業界でも毎回必ず賛否両論の意見がぶつかる。
ファッションメタバース、NFTの未来はいかなるものだろう。
今後一般に受け入れられていくのか?それとも一時的なブームで終わるのか。
昨年から熱が冷めないNFT、メタバース市場も例外ではない。
3月24日〜27日にVRプラットフォームのディセントラランド(Decentraland)上で開催された、史上初となるメタバースファッションウィーク(MVFW)。
4日間にかけて行われたこのMVFWには、DOLCE & GABANNA(ドルチェ&ガッバーナ)、ETRO(エトロ)、TOMMY HILFIGER(トミー ヒルフィガー)、ELIE SAAB(エリー サーブ)、BOSS(ボス)などの世界的有名ブランドも名を連ね、計50のブランドが参加した。
日本のブランドではアンリアレイジが参加。
「ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリの世界4大ファッションウィークに新たにメタバースファッションウィーク(MVFW)が加わった!」と新たな市場に世界各国から多くの参加者が胸を躍らせ、仮想空間におけるファッションの可能性をディセントラランド上で体験した。
しかしイベント開催後、ファッション業界の参加者からは懐疑的な意見も飛んでいた。
その理由というのが、メタバース上でのランウェイショーで見る衣装のクオリティだ。
例えば、Etro(エトロ)はエキゾチックで鮮やかなブリントのルックが魅力的だが、メタバース上でその美しさは伝わらず、地味で曖昧な渦巻模様の洋服に見え、現実のブランドが織りなす世界観からかけ離れているものだった。洋服のカットやフィット、ファブリックなど、ファッションデザイナーがこだわる細部は画面上では伝わらず、すべて同じようなデジタルプロキシに見えている。
しかし、現時点ではこういった技術的な制限ありの中で、スーパーリアリズムのようにリアリティに近いブランドのムードや洗練さを表現するのは難しいとされている。
また、今回のメタバースファッションウィークは世界初の試みということもあり、ゲーミング用コンピューターではない通常のパソコンからアクセスした参加者たちは、たびたび画面がフリーズし思うように動けなかったというトラブルも報告された。
そういった理由からリアルのショーと比べるとメタバース上のランウェイは面白みに欠けるという声が上がるのが現状だ。
次々にメタバースに参入するファッションブランド
ブランド側はこういったジレンマを抱えながらも、メタバースは次世代の顧客とつながるための重要なチャンネルとして、今後益々需要が高まる可能性があることも理解している。
これまでのファッション業界は、ソーシャルメディアやEコマースなど新しいテクノロジーの導入にとても保守的であった為、ビジネスモデルをデジタルへシフトしていくのにかなりの時間を要してきた。しかし今回のNFTやメタバース市場への参入に関しては、極めて積極的である。
2020年にはブランドのヴァレンティノ、マーク ジェイコブスに続き、ジバンシイが任天堂のゲーム『あつまれ どうぶつの森』内でキャラクターが着用できる「マイデザイン」にアイテムを提供したり、メゾン マルジェラやマルニを運営するOTBグループが、メタバース向けの製品などを開発する新規部門ブレイブ・バーチャル・エクスペリエンスを設立したりしている。
米国ではレベッカミンコフが2021年の9月に開催されたニューヨークファッションウィークにて、最新コレクションの洋服やアクセサリー15点をNFTを介したデジタルコレクションという形で発表して話題になった。
またバレンシアガは、オリジナル制作のゲーム内で2021年秋コレクションを発表したり、同年に人気オンラインゲームの「フォートナイト」ともコラボレーションをしている。
フォートナイト公式より(バレンシアガによるデジタルファッションがフォートナイトに登場)
「Web3.0」時代への移行
メタバースと呼ばれる仮想空間は実は目新しいものではなく、2003年にアメリカのリンデンラボ社が発表した、仮想空間を舞台にしたオンラインゲーム「 Second Life (セカンドライフ)」と何ら変わらない。
2003年当初から「 Second Life (セカンドライフ)」では、オンラインゲーム上で自分のアバターを使い、仮想空間上の街で買い物をしたり、友人を作って交流したり、自分で店をオープンして物を販売したり、会社を立ち上げビジネスをしたり、土地を購入したりと、その名の通り「現実社会」のような第二の人生を作れてしまう画期的なものとして人々を圧倒させていた。
しかし2006年に「 Second Life (セカンドライフ)」のブームは最高潮に達し、その後一気に人々の熱が冷め、話題性はなくなっていたのである。
では、なぜ現在メタバースが再度注目を集めているのだろうか?
その大きな理由がインターネットの「Web3.0」時代への移行である。「Web3.0」の簡単なコンセプトにすると、パブリック型のブロックチェーンを基盤としたインターネットの概念だ。これまでのインターネットは「Web 2.0」と呼ばれ、Google (Alphabet)、 Apple、 Facebook (Meta)、 Amazon、 Microsoft (通称 GAFAM)を始めとする特定の巨大企業がネット上にある個人情報などのデータを独占している状態だったが、この「Web3.0」により、情報がどこかの大企業や団体に集中することなく、分散して管理される世界が実現できると言われている。
また、アメリカのメディアサービス会社Bloombergは、今後メタバースの市場規模は2020年の4787億ドルから、2024年には7833億ドルに拡大すると予測しており、「Web3.0」によって、ブロックチェーンに対応した新しいビジネスモデルやソーシャル、ゲーミング・ネットワークを有効活用するアプリケーションを通じ、大企業に大きなメリットをもたらすのではと期待が湧いている。
「Web3.0」時代のメタバースは、次世代のストリーミングサービスか?それとも3D映画なのか?
新しいテクノロジーがビジネスモデルに参入する時には、決まって懐疑的な意見も上がる。そしてそれが未来のビジネスモデルを革新的に変えるものになるかは、誰にもすぐにはわからない。
例として、ストリーミングサービスと3Dムービーを挙げて考えてみよう。
ストリーミングサービスはメディア、音楽業界のこれまでの常識を一気に覆した良い例だ。数年前まで、自宅で映画を楽しむにはDVDをレンタルして、自分で店舗に返却、もしくは郵送で返却していた。また、音楽もCDを購入したり、楽曲ごとに購入し、ダウンロードしたりするのが当たり前だった。
だが、NetflixやSpotify、Amazon Prime などがストリーミングサービスを始めてからというもの人々にはその必要が全くなくなり、いつでも好きな時間に好きな場所で好きなだけ音楽や映画を楽しめる様になった。こうしてストリーミングサービスは現代人の生活になくてはならないものとして定着していったのである。
一方で、3D鑑賞できる映画はどうだろうか。
一時期はその体験の目新しさから観客を惹きつけていたが、結局数年後には人々がその付加価値をあまり感じられず、革新的なものとして普及はされなかったように思う。
どの時代を振り返っても新しいテクノロジーの最初のスタートは決して完璧ではない。今回のメタバースファッションウィークをとっても、技術的な障害は非常に大きく、今後それを克服したとしても、ユーザーがこの仮想でのファッションショーを受け入れていくかどうかはまだ分からない。
今後ファッションブランドや企業は、新しい技術に参入したということで話題性を作るだけではなく、自社ブランドのイメージを保ちつつも、いかにそれを利用して新しいビジネスモデルを革新的なものに適合させていくかが、未来を決めるキーとなるだろう。