NRF 2026 レポート⑾:Googleが再設計する小売の全体構造、AIエージェントが“発見から配送”までを統合へ

NRF
共同編集:株式会社ビーツ/ワールド・モード・ホールディングス株式会社
ライター:西村 幹太

Googleが、小売業界におけるAI活用の新たな基盤を打ち出した。AIエージェントによる電子商取引のために設計された共通規格「ユニバーサル・コマース・プロトコル(Universal Commerce Protocol、以下UCP)」の提供開始と、小売向けAI基盤「Gemini Enterprise for Customer Experience」のプレビュー公開である。加えて、「アルファベット(Alphabet)」傘下のドローン配送企業「ウィング(Wing)」と「ウォルマート(Walmart)」の提携拡大も発表された。商品の”発見”から購入、配送までをAIが一気通貫で支える構想が、具体的な形をとり始めている。

小売業者によるグーグルのAI利用は急拡大している。グーグルのAPIを通じたデータ処理量は、2024年12月の8.3兆件から1年後には90兆件超へと、前年比11倍以上に膨らんだ。グーグルは独自の半導体からAIモデル、クラウド、製品群まですべての技術階層に投資する”全方位型”の開発体制を武器に、小売の”次章”を形づくる構えだ。

500億件の商品情報が支える”発見”の再設計

グーグルが小売変革の軸に据えるのは、「発見」と「意思決定」の2つの領域である。

まず発見の基盤として機能するのが、2021年から稼働する商品情報データベース「ショッピング・グラフ(Shopping Graph)」だ。在庫、価格、レビューを含む500億件以上の商品情報を収容し、毎時20億件以上がリアルタイムで更新される。Google検索に搭載されたAIモードは、キーワード入力から自然な会話へとショッピング体験を転換し、利用者が具体的な好みや条件を言葉で伝えられるようにした。

では、こうした”発見”の入り口は、どこまで広がっているのか。Googleの対話型AI「Gemini(ジェミニ)」は月間6億5,000万人以上の利用者を擁し、前年比約50倍の成長を遂げた。2025年11月にはショッピング・グラフがGeminiに統合され、買い物に関する問いかけへの対応力が強化されている。画像検索サービス「Google Lens(グーグル・レンズ)」では月間200億回を超える検索が行われ、YouTube(ユーチューブ)では年間400億時間以上のショッピング関連コンテンツが視聴されている。

UCPが開くAIエージェント商取引の時代

発見の次に来る”意思決定”の領域で、Googleが提示したのがUCPである。AIエージェントが自律的に商品の比較・提案・購入手続きを行う次世代の電子商取引に向けて設計されたこの共通規格は、特定の技術や企業に依存しない開かれた設計思想を持つ。ショッピファイ(Shopify)、エッツィー(Etsy)、ウェイフェア(Wayfair)、ターゲット(Target)、ウォルマートといったパートナー企業および20以上のグローバルアドバイザーと共同で開発された。Agent to Agent、Agent Payment Protocol、Model Context Protocolなど既存の業界規格との互換性も確保されている。

UCP(ユニバーサル・コマース・プロトコル)が実現するのは、Google検索のAIモードやGemini(ジェミニ)の画面上に直接「購入」ボタンを配置する、会話の中で完結する購買体験である。対話の流れの中で個々の利用者に合わせた提案、ロイヤルティプログラム(顧客優待制度)への登録、関連商品のおすすめまでが一連の体験として完結する。

この購買基盤と対をなすのが、同時に発表された「Gemini Enterprise for Customer Experience」だ。小売向けのAIエージェント構築に特化したこの基盤は、これまで断片化していた検索、購買、顧客対応の各接点を、途切れのない一つの顧客体験へと統合する。ホームデポ(Home Depot)、マクドナルド(McDonald’s)、クローガー(Kroger’s)との協業により、個々の顧客に最適化された接客・買い物エージェントの構築が進んでいる。

ウィングとウォルマート、ドローン配送を拡大

発見から購入までの体験が刷新される一方で、その先にある”届ける”領域にも変化が及んでいる。ウィング(Wing)とウォルマートの提携は大幅に拡大し、新たに150拠点が追加されて合計270拠点体制となる。これにより4,000万人が配送サービスの対象となり、ロサンゼルスからマイアミまで全米を横断する配送網が実現する。アトランタの既存データでは、利用者の約50%がリピーターとなり、配送の半数が20分以内、最速は約6分で届くという実績が示されている。

ウォルマートが踏み出すAIエージェント主導の小売

ウォルマートもまた、AIを軸とした変革を加速させている。社内では顧客向けAIエージェント「スパーキー(Sparky)」をはじめ、店舗スタッフ向け、取引先向け、開発者向けの4種のAIエージェントを展開。エージェント型AIは、検索がかつて電子商取引に与えた変革に匹敵する影響力を持つと捉えている。

この延長線上に位置づけられるのが、Google Gemini(ジェミニ)との提携である。ウォルマートおよびサムズ・クラブ(Sam’s Club)の商品・価格情報がGemini上に自動で統合され、顧客アカウントの連携を通じて、個々の利用者に最適化された購買体験を目指す。供給網の領域でも変化は進んでおり、重労働の自動化に伴い、ウォルマート社員は「ボットテック(ロボット管理技術者)」や「バッテリーテック(電池管理技術者)」といった新たな技術職へと役割を広げつつある。物流施設のデジタルツイン(仮想複製モデル)を活用した在庫管理にも携わるようになった。

“大胆かつ責任ある”開発姿勢の中身

Googleは、AIを人類が取り組む最も根源的な技術と位置づけ、”大胆かつ責任ある”姿勢で開発に臨むとしている。画像生成AI「ナノ・バナナ(Nano Banana)」が数週間で50億~100億枚の画像を生成した事例が示すように、生成AIの出力規模は急速に拡大しており、安全策の組み込みは不可欠である。合成画像を検知するための電子透かし技術をオープンソース(誰でも利用・改良できる形態)で公開する取り組みにも投資を進めている。

小売の未来は、消費者を起点に据えたまま急速に進化していく。Googleが提示したのは、小売業者が”取引の主体”であり続けながら、AIエージェントが発見から購入、配送までの顧客体験を途切れなく支える世界である。技術が小売を代替するのではなく、小売業者と消費者の関係をより深く、よりパーソナルなものへと進化させる。それが、Googleの描く”次章”の本質なのだろう。

Company Profile

株式会社ビーツ

ビーツは、スペースデザインと店舗デジタルソリューションを最適化するマーケティング企業。

クリエイティビティにデータやテクノロジーを組み合わせることで、リテールという最強の顧客接点で体験できるブランドエクスペリエンスを進化させ、生活者のリアルな感動・喜び・信頼を生み出す心地よい「共感」を創出している。

公式サイト
https://www.beeats.co.jp/

 

ワールド・モード・ホールディングス株式会社

ファッション・ビューティー業界を専門に、人材、デジタルマーケティング、店舗代行など多様なソリューションを提供するグループ。

iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社の7社の国内事業会社を擁し、シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアに海外拠点を展開。各社の専門性を掛け合わせたシナジーにより、顧客の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供している。

公式サイト
https://worldmode.com/jp/

Copyright © 2026 Oui Speak Fashion. All rights reserved.