共同編集:株式会社ビーツ/ワールド・モード・ホールディングス株式会社
ライター:柏木又浩
ニューヨークで開催された全米小売業協会「NRF 2026」。数多くのセッションの中でも、特に注目を集めたのが「Think like a marketer, act like a creator(マーケターのように考え、クリエイターのように行動せよ)」と題されたパネルディスカッションである。
本記事では、ファッションビジネス誌「Oui Speak Fashion」の読者の皆様に向けて、このセッションで共有された最前線の知見をレポートする。カルト的人気を誇るコスメブランド、タルト コスメティックス(Tarte Cosmetics)や、若者向けファッションを牽引するパクサン(Pacsun)が、いかにしてTikTok Shopという新しい販売フロンティアで成功を収めているのか。その戦略の核心に迫る内容だ。
新時代のコマースフロンティア:なぜ今TikTok Shopなのか
本セッションがこれほどまでに関心を集めた背景には、TikTokが単なるエンターテインメントプラットフォームから、ブランドにとって重要な販売チャネルへと急速に進化している現状がある。
TikTokの最大の特徴は「発見型コマース」である。ユーザーが商品を目的検索する従来のECとは異なり、エンターテインメントを楽しむ過程で偶然商品と出会い、そのまま購入に至る仕組みだ。
この環境では、従来型の広告的マーケティングだけでは成果は生まれない。ブランドは魅力的なコンテンツを通じてユーザーとの関係性を築き、コミュニティを形成する必要がある。この「コミュニティの力」こそが、本セッションの中心テーマであった。
「売る」から「繋がる」へ:コミュニティの時代
現代の消費者、とりわけZ世代は商品そのもの以上にブランドとの共感や関係性を求める傾向が強い。TikTokはその関係性を築く場として、極めて強力な役割を果たしている。
パクサンのチーフ・マーチャンダイジング・オフィサーであるリチャード・コックスは、TikTokを単なる販売チャネルではなく「コミュニティ形成のプラットフォーム」と位置付けている。
TikTokを活用することで、ブランドはリアルタイムで消費者の反応を把握できる。そこから得られるフィードバックは、商品開発やマーケティング戦略にとって重要な学習機会となる。
その代表例が「Croctober」と呼ばれるライブ配信キャンペーンだ。10月の1か月間、30日連続でライブ配信を行うという企画である。
この施策から得られた最大のインサイトは、消費者は作り込まれた広告よりもリアルで飾らないコンテンツを好むという事実であった。自然な交流の中でこそ、真のエンゲージメントが生まれるという発見である。
一夜でジーンズ1万本:バイラルの力
TikTokの最大の特徴は、予測不能なバイラル現象にある。
パクサンのコックスが紹介した事例は、その象徴と言えるものだ。2023年のブラックフライデーに起きた出来事である。
発端はフォロワー5000人未満のクリエイターだった。その人物がパクサンのジーンズを着用した動画を投稿したのである。特別な演出のない、ごく自然なコンテンツだった。
しかしアルゴリズムがその動画を拾った瞬間、状況は一変する。動画は一夜にしてバイラルとなり、爆発的に拡散した。
その結果、パクサンは一晩で約1万1000本のジーンズを販売。その後も売れ続け、最終的には10万本以上の販売に到達したという。
この事例が示すのは、TikTokが広告プラットフォームではなく「発見のプラットフォーム」であるという事実である。
TikTokが生む「ハロー効果」
TikTokでの成功は、プラットフォーム内の売上にとどまらない。タルト コスメティックスのデジタルマーケティング担当VPであるジェナ・マヌラ・リナレスは、TikTokがブランド全体の売上を押し上げる「ハロー効果」を実証した。
象徴的な事例が、同社のコンシーラー「CCアンダーアイカラーコレクター」である。
クリエイターが目の下に黒いマーカーを描き、それをコンシーラーで消すという動画がTikTokでトレンド化した。視覚的なビフォーアフターのインパクトが強く、瞬く間に拡散したのである。
その結果、TikTok Shopで約60万個を販売。さらにセフォラ(Sephora)やアルタ(Ulta)の店舗でも商品は完売となった。
興味深いのは、TikTok Shopが米国限定のサービスであるにもかかわらず、ブランドの公式ECサイトでは海外売上も急増した点である。TikTokの影響力がグローバルに波及した証拠と言える。
TikTok成功の戦略
パネルディスカッションでは、TikTokで成功するための具体的戦略も語られた。
エンターテインメントとコマースのバランス
フェリス・パピッチによれば、TikTok戦略には大きく2つの方向性がある。
一つはインフルエンサー主導のコンテンツ戦略である。クリエイターの個性を活かしたコンテンツを通じて自然なブランド体験を作る方法だ。もう一つは「スーパーブランドデー」のような大型販売イベント。Amazonのプライムデーのように、商業的なピークを作る戦略である。
重要なのは、これらをTikTok内だけで完結させないことだ。小売店舗、EC、他のSNSと連動させた総合キャンペーンとして展開する必要がある。
バイラル需要への対応
TikTokの最大の課題は、需要の予測が極めて難しい点である。
コックスは、柔軟なサプライチェーンとデータ分析への投資が不可欠だと語る。在庫切れを単なる失敗ではなく、需要の強さを示す指標として捉えるべきだという。
一方、リナレスはアルゴリズム的にバズりやすい商品を事前に多く生産するという戦略を紹介した。データを活用した「バイラル準備型」の在庫戦略である。
収益性重視への移行
TikTok Shopは初期段階ではブランド誘致のため多くのインセンティブを提供していた。しかし現在はその規模が縮小している。つまり、ブランドは顧客獲得と収益性のバランスをより厳しく評価する必要があるということだ。
ただしTikTokはインフルエンサーとの既存関係を活用できるため、他のマーケットプレイスより高いROIを実現できる可能性があるという見方も示された。
新しいマーケティング測定
TikTokの価値を測定するためには、従来のラストクリックモデルでは不十分である。
登壇者たちは以下の測定方法を推奨した。
- メディアミックスモデリング:TikTokが全チャネル売上に与えた影響を統計的に分析する手法
- ソーシャルリスニング:SNS上の会話を分析しブランド認知や感情を把握
- 検索ボリューム分析:TikTok露出後のGoogle検索増加を測定
- 店頭フィードバック:「TikTokで見た」という顧客の声の収集
これらを組み合わせることで、TikTok投資の真のROIを把握できるのである。
TikTok時代のマーケティング原則
セッションを通じて浮かび上がった成功原則は次の4つである。
- 試行錯誤を恐れないこと
- パートナーシップを活用すること
- スピードを重視すること
- 予測不能なヒットに備え柔軟であること
結論として示されたのは、データを重視するマーケターの思考と、コミュニティを魅了するクリエイターの行動。この二つを組織のDNAとして融合させることが、TikTok時代のブランド成功の鍵であるというシンプルな真実であった。
Company Profile
株式会社ビーツ
ビーツは、スペースデザインと店舗デジタルソリューションを最適化するマーケティング企業。
クリエイティビティにデータやテクノロジーを組み合わせることで、リテールという最強の顧客接点で体験できるブランドエクスペリエンスを進化させ、生活者のリアルな感動・喜び・信頼を生み出す心地よい「共感」を創出している。
公式サイト
https://www.beeats.co.jp/
ワールド・モード・ホールディングス株式会社
ファッション・ビューティー業界を専門に、人材、デジタルマーケティング、店舗代行など多様なソリューションを提供するグループ。
iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社の7社の国内事業会社を擁し、シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアに海外拠点を展開。各社の専門性を掛け合わせたシナジーにより、顧客の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供している。
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