この数年でアメリカのリセール市場はさらにその熱を増し、多くの企業で市場の奪い合いが起きている。
そんなアメリカのリセール市場に海外から乗り込んだのが、フランスのユニコーン企業であるVestiaire Collective(ヴェスティエール コレクティブ)だ。
ヴェスティエール コレクティブとは
ヴェスティエールコレクティブは、ハイエンドブランドを扱うリセールECプラットフォームとして2009年に創業された。
同社は2021年6月、ケリング(グッチやバレンシアガ、サンローランなどの親会社)からの2億1,500万ドルの投資を含めた6億5,000万ドル以上の資金を調達することに成功。会社の評価額は10億ドルを超え、フランスのユニコーン企業の一つとなった。現在はその出資を元手に世界市場へビジネスを展開するために動き出しているのだ。
トレードシーの買収でアメリカ市場での地位を強固する
グローバル展開のコア市場としてヴェスティエールが焦点を当てたのがアメリカだ。
同業界のThredUpがアメリカの成人した消費者3,500人とファッション小売業者 50人を対象に実施した調査結果によると、アメリカのリセール市場は2026年までに現在の2倍以上の820億ドルに達すると推定されている。
ヴェスティエールコレクティブは当初ヨーロッパの顧客に焦点を当て販売していたが、近年の加熱し続けるアメリカのリセール市場に最大のチャンスがあると考え、アメリカでのプレゼンスの強化に乗り出したのだ。
その第一弾として行ったのが、今年2022年3月15日に発表したアメリカのリセール業界のパイオニアであるTradesy(トレードシー)の買収だった。
トレードシーはロサンゼルスを拠点にアメリカ国内のみで700万人以上の顧客にサービスを展開しているいわば競合他社。ユーザーからは同社商品・サービスに関して平均4.77つ星という高い評価を受けており、古着サイトでは1位にランクインするほど定評のある企業だった。
ヴェスティエールコレクティブは、2014年にアメリカへの参入をしていたが、当時リセール市場における競合他社と真っ向に戦うことができなかった過去がある。しかし今回アメリカのライバル社であったトレードシーと合併をし、トレードシーが持つアメリカでのマーケティングノウハウや豊富な顧客を取り込むことで、アメリカでのプレゼンスを確固たるものにできるだろうと考えたのだ。
ヴェスティエールコレクティブがトレードシーを買収したことにより、両社はチームを統合し、また高い認証分野のテクノロジー等の社内ツールを共有した。また、両社合併後の規模は、500万のアイテム数、2,300万の顧客数、10億ドルを超える総商品価値となった。
現在両社は別々に運営されているが、ヴェスティエールコレクティブは来年の初めまでにトレードシーを閉鎖し、大改革を行うことも発表した。
ヴェスティエール コレクティブの強み
ヴェスティエールコレクティブは、競合他社との差別化で有利な点がいくつもある。
一つが、同社の販売モデルである。The Real Real を始めとするアメリカの多くのリセール企業が行っているのは、中古品を一度買い取って販売する再販モデルだ。しかしヴェスティエールコレクティブでは、出品者が自身で商品撮影、アップデートし、商品がサイト上で売れたら自身で梱包し、発送をするというPeer-to-peer(ピア トゥー ピア )モデルを採用している。これによって、企業側の在庫管理等の負担が減り、取引額を抑えることが出来るのだ。
実際に同社ではアメリカ市場で100ドルを超える取引には15%のコミッション受け取り、出品者へは85%の報酬を支払っている。これは競合他社のThe Real Real が例えば50ドル以下の取引に80%のコミッションを受け取り出品者へ20%の報酬、4,995ドル以上のハンドバッグの取引に20%のコミッションを受け取り、出品者へ80%の報酬と比べても、はるかにセラーへの還元率が高い。
次に挙げられるのが、ヴェスティエールコレクティブの優良な認証技術である。
中古品販売市場における最大の懸念と言えば、取り扱うブランド品の真贋鑑定だが、同社はフランスのパリ本社を起点に、アメリカ、イギリス、香港、シンガポールに認証センター(ハイブランドの真贋鑑定センター)とロジスティクスセンターを構えている。また1,000ドル以上の購入品と国際取引については認証センターでの真贋鑑定・品質検査を行い、購入者は事前に認証を受けた商品を受け取ることが出来、 1つの市場で1,000ドル未満の商品の場合には、購入者は15ドルを支払い認証サービスを受けることが出来るオプションや、購入した商品を販売者から直接発送してもらうことも出来る。
現在のリセール市場では新規顧客の獲得は至難の業だと言われており、中古品に興味がない多くの人は、購入した物が偽ブランド品であることへの懸念や、わざわざ中古品を買うのが面倒だという理由から、購入に踏み出そうとしない。
「しかしヴェスティエールコレクティブの存在によって、これまで中古品の購入に抵抗があった人々へも新しい変化をもたらすことができれば」と認証の専門家であり、ラグジュアリー再販コンサルタントである Graham Wetzbarger (グラハム・ウェッツバーガー)氏は語る。
韓国進出を果たし、アジア市場へと
ヴェスティエールコレクティブの新たなグローバル展開はアメリカだけに留まらない。
同社は先月7月に韓国へローカルオフィスの立ち上げを行った。これに伴い、Tourcoing (フランス)、ニューヨーク、ロンドン、香港、シンガポールに続く認証センターも開設。
この新たな立ち上げにより、韓国でもヴェスティエールコレクティブの500万点のアイテム (毎日25,000 点の新しいアイテムが追加される) へアクセスできるようになり、さらに世界中のユーザーが韓国からの出品者のワードローブにアクセスできるようになった。
完全にローカライズされた同社のサービスは、サイト全体で韓国語が使用され、現地通貨ウォンでの支払いが可能になっている。また、ローカル検索エンジンのNaver(ネイバー)とKakao(カカオ)と同期した簡単なサインアップ方法が特徴だ。世界の他の地域と同様に、コンビニエンスストアでのドロップオフと地元の宅配便のピックアップサービスもある。
「急速な成長と革新的なマルチチャネル市場を持つ韓国には、大きな可能性があります。本日この市場に参入し、シームレスでローカライズされたサービスを拡大し、韓国のお客様に売り手としても買い手としても、私たちの壮大なグローバルリセールコミュニティへアクセスして頂けることをとても楽しみにしています。そしてこの戦略的な立ち上げが、アジア太平洋地域内の他の市場にも利益をもたらすだろうと期待しています。」とヴェスティエールコレクティブCEOのMax Bittner(マックス・ビットナー氏)は語った。
また、ヴェスティエールコレクティブの共同創設者兼社長であるFanny Moizant(ファニー・モザント) 氏は、「韓国は、テクノロジー、ファッション、サステナビリティの世界的なトレンドをリードする非常にダイナミックな国です。韓国でローンチすることで、リセール市場での膨大な需要を満たすことができるだけでなく、世界中の魅力的な商品を韓国のお客様にお届けすることが出来るようになりました。」と付け加えた。
Bain&Companyによると、韓国のラグジュアリー市場の規模は約150億ドルに達しており、個人のラグジュアリー消費において世界トップ10に入る市場の1つだ。
また世界的ブームを巻き起こし一つの文化となったK-Popや韓国ドラマでは、アイドルやヒロインたちが身につけるファッションアイテムやブランド品が注目され、そこからトレンドが生まれてくる。
ヴェスティエールコレクティブのグローバルな商品カタログを通して韓国でこれまで入手困難だった商品にアクセスができるようになることで、「ParKo」= Parisian meets South Korean style(パリジャンと韓国スタイルの融合)というような新しいトレンドが生まれるのではないだろうか。
同時に、こうしたヴェスティエールコレクティブの戦略的なグローバル展開は、アメリカの競合他社がこれまでに実現してこなかったリセール市場の新たな道を切り開いていくのかもしない。