エルメス(HERMÈS)がNFT「メタバーキン」の商標権を巡る訴訟に勝訴 | デジタルアートは芸術作品と見なされず

MetaBirkins

2月8日(現地時間)、エルメス(HERMÈS)は、アーティスト メイソン・ロスチャイルド(Mason Rothschild)によるNFTプロジェクト「メタバーキン(MetaBirkins)」の商標権侵害をめぐる裁判で勝訴したことが伝えられた。これは、NFT による知的財産権の侵害を検討する史上初の裁判となった。

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メタバーキンは、エルメスから公式にNFTとして発売されたものではなく、デジタルアーティストのMason Rothschild氏によって2021年に作られたものだった。当時100個限定のデジタルバーキンとしてNFT市場を沸かせ、当初は0.1イーサリアムで約450ドル(約6万円)で販売されていた。また、二次流通のNFTで得た利益の7.5% も含めると、ロスチャイルドはメタバーキンを通じて約12万5000ドルの利益を得たとされている。

これに対し、エルメスは「メタバーキンがブランドの商標を侵害し、バーキンの持つ品位を弱めた」と主張し、2022年1月に訴訟を起こした。NFTは新しい市場の為どの国でも法令が定められておらず、エルメスが起こした訴訟は、「NFTによる知的財産権の侵害を検討する最初の裁判」であるとして注目を集めていた。

  • デジタル商品は本物の製品を侵害しているのか?
  • デジタルアートと模造品の違いは何か?
  • NFTがjpegファイルのアートを認証するためにブロックチェーン上に置かれているコードだとした場合、NFTと jpegは同じものとして考えられるのか?それとも別物か。
  • NFTは商品か、それともアメリカ合衆国憲法修正第1条によって保護される芸術作品であるか。

マンハッタン連邦裁判所に提出された書類では、NFTやその他のデジタルアセットに関するこういったいつくもの大きな法的疑問点が上がっていた。

最終的に陪審員は「デジタル画像は芸術作品ではない」と述べ、メタバーキンに対し商標法を適用するべきという判決が下された。また陪審員は、「NFTであろうとなかろうと、ロスチャイルドのメタバーキンが米国法の下でエルメスの商標を侵害している」と主張。その結果、ロスチャイルドは商標権侵害を認め、総額13万3000ドル(約1750万円)の損害賠償の支払いが命じられた。

裁判の結果を受け、ロスチャイルドは自身のTwitterで批判的なコメントを投稿。

「今、路上で通行人を9人捕まえて、アートとは何かと尋ねる。そこで返ってきた答えが議論の余地のない真実となってしまう。それが今日起きたことだ。数十億ドル規模のファッション企業が、アートやアーティストを”大切にする”と言いながら、アーティストが何を作ったかではなく、履歴書や出身校を見て”芸術とは何か、誰が芸術家であるか”を選択する権利があると思っている。それが今日起きたことだ。アートの専門家ではなく経済学者に芸術について話させる司法制度。これらは全て間違っている。私たちが戦い続けなければ、これからも同じことが起こり続けるだろう。これはまだ終わっていない」

また、同氏のインスタグラムでは、裁判中の自身を描写したスケッチや、裁判の様子のを写した写真数枚と共に、今後のNFTやWeb3の浸透について以下のようなコメントを添えた。

「物事は私の思い通りにはいかなかったが、戦いはまだ終わっていない。私はWeb3を含め、物事に対して早い段階から取り組んできたと自負しているが、時にはこのような成長痛を伴うことがあるだろう。それは私がしていることが早いからだ。ほとんどの人は、これが何なのか理解していないが、決して理解できないというわけではない。だからこのスペースにいる私や他のクリエイターの義務は、それが何なのかを彼らに示すことだ。私たちは進み続ける。負けてしまったが、死んだわけではない。」

しかし、この判決を受け、Web3に関わるデジタルアーティストたちからメイソン氏に対して、ソーシャルメディアで彼の主張を支持し、擁護する意見も見られた。

これまで法律によって商標や知的財産権が適用されるかどうかは定められていなかったデジタルアートだが、今回の判決でデジタルクリエーターに対し、知的財産法はブロックチェーン上で強制力があると見なされるべきだ、と間接的に警告がなされたようだ。

著名なブランドがWeb 3, NFT業界へ参入していくに応じて、多くの模倣品の NFTコレクションが立ち上げられていくことは予想出来る。しかしデジタルクリエイターは、潜在的な商標侵害と見なされる可能性のある領域に足を踏み入れる前に、その立ち上げを熟考する必要があるだろう。