共同編集:株式会社ビーツ/ワールド・モード・ホールディングス株式会社
Editor:Riri Kamata
いまのニューヨークで支持を集めるブランドには、規模とは別の力がある。広く届くことよりも、濃く共有されること。その空気が先に生まれ、あとから広がっていく。流行として消費されるのではなく、文化として根付いていくのである。
連載第1回では、「ゴハー・ワールド(Gohar World)」のポップアップ事例を通して、“内側の魅力”を持つ空間について取り上げた。第2回となる今回は、「マイモウン(Maimoun)」にフォーカスする。
本連載では、2026年春夏シーズンのニューヨークを象徴する最新空間を通して、変化し続ける都市感覚と、新しいリテールカルチャーのあり方を読み解いていく。
マイモウン(Maimoun)
アルタ・ペレジックへのインタビューを通して見えてくる「マイモウン(Maimoun)」のデザインプロセスは、視覚的な厳密さと、協働による明確な共有意識を基盤としている。計画の初期段階から、ドローイング、図面、レンダリング、リファレンスイメージは、空間を形づくるための手段であると同時に、関係者間で認識を揃えるための共通言語として機能していた。初期のコンセプトプレゼンテーションは、単なる提案の場ではなく、対話の場となり、アイデアが検証され、問い直され、徐々に精度を高めながら空間へと結晶していった。
美的な方向性について、ペレジック氏は1980年代から緩やかな影響を受けていると語るが、それは決して直截的でもノスタルジックな引用でもない。参照されたのは、抑制が効き、洗練され、自信を内包した当時の静かな感覚である。過度にスタイルを主張するのではなく、多様な前例や家具を検討し、それらを枠組みとして用いることで、空間は構成的でありながらも開かれた印象を保ち、現代的でありつつ規定的になりすぎない表情を獲得している。

初期案のひとつには、衣服を空間内で自由に移動させることができる可動式のハンギングシステムが構想されていた。レールを用いたこのアイデアは、時間的制約により最終的には実現に至らなかったものの、プロジェクト全体に通底する志向を明確に示していた。それは「適応性」である。
目指されたのは、華やかでありながらも親密さを感じさせる空間であり、クライアントはそれを「母親のクローゼットにいるような感覚。ただし大人のためのもの」と表現した。この親しみと洗練のバランスが、スケール、素材感、ディスプレイの判断を支え、建築が衣服と競合するのではなく、引き立てる存在となることを可能にしている。

マイモウンの建築およびデザインは、アルタ・ペレジックとエヴァー・ヴァルガスによって設立されたペレジック・ヴァルガス·スタジオ(Perezic Vargas Studio)を中心に、ローラ・セレホ・ジェネスとの協働、そしてジーユー・ハーのサポートによって進められた。ロサンゼルスを拠点とするペレジック・ヴァルガス・スタジオは、リサーチと文脈を重視したアプローチで知られ、ニューヨークとパリを拠点に活動するデザイナー、キュレーター、アーティストであるジェネス氏は、多分野的な視点をプロジェクトにもたらした。
マイモウンを超えた視点として、ペレジック氏は現代におけるリテールの役割の変化についても言及する。店舗はもはや単一の機能を果たす場所ではなく、イベントやポップアップ、コラボレーションを内包するハイブリッドな環境として機能することが求められている。買い物が次第に取引的な行為から離れていくなかで、彼女は、物理的な空間にはより持続的な価値が必要だと指摘する。それは、体験であり、柔軟性であり、そして人と人とをつなぐ可能性である。


Perezic Vargas Studio
Los Angeles
Architecture & Design Studio
アルタ・ペレジックとエヴァー・ヴァルガスによって設立された建築・デザインスタジオ。建築、インテリア、空間設計を横断し、コンテクスト、プログラム、素材の論理を精査しながらプロジェクトを構築。建築的な明快さと精緻なディテールを両立させ、コンセプトを実装可能な環境へと具体化している。
主なプロジェクト:Goat Group / Alias / Flight Club
Laura Serejo Genes
New York / Paris
Designer / Curator / Artist
ローラ・セレホ・ジェネス。ニューヨークとフランスを拠点に活動するデザイナー、キュレーター、アーティスト。インテリアデザイン、展示構成、アーティスティック・リサーチを横断し、オブジェクト、空間、物語性の関係を探求する実践を行う。コーセキ・キヨトとの協働により「ヌエボ・コンスタンテ(Nuevo Constante)」の名でキュレーションプロジェクトも手がける。
主なプロジェクト:Strauss Studios / Other Means / Queens Museum
Editor
Riri Kamata
東京生まれ。14歳で単身渡米し、ニューヨークを拠点に活動。Parsons School of Designにてプロダクトデザインを専攻し学士号を取得後、同校ファッションマーケティング学部を修了。ファッション領域では、スタイリストアシスタント、プリントデザイン、ビジュアルマーチャンダイジング、プロダクションなど多角的な経験を積む。現在はニューヨークを拠点にジュエリーレーベル「abroad」を主宰し、すべてのジュエリーを自身の手で制作している。私生活では、韓国のカルチャーやトレンド、生花(小原流)、哲学書──とりわけプラトンに親しむ。
公式サイト
https://www.abroad.nyc/
Company Profile
株式会社ビーツ
ビーツは、スペースデザインと店舗デジタルソリューションを最適化するマーケティング企業。
クリエイティビティにデータやテクノロジーを組み合わせることで、リテールという最強の顧客接点で体験できるブランドエクスペリエンスを進化させ、生活者のリアルな感動・喜び・信頼を生み出す心地よい「共感」を創出している。
公式サイト
https://www.beeats.co.jp/
ワールド・モード・ホールディングス株式会社
ファッション・ビューティー業界を専門に、人材、デジタルマーケティング、店舗代行など多様なソリューションを提供するグループ。
iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社の7社の国内事業会社を擁し、シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアに海外拠点を展開。各社の専門性を掛け合わせたシナジーにより、顧客の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供している。
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