スイスの高級時計ブランド「オーデマ ピゲ(Audemars Piguet)」と「スウォッチ(Swatch)」が、新コラボレーションコレクション「Royal Pop」を発表した。ポップアートから着想を得た同コレクションでは、「ロイヤル オーク(Royal Oak)」の象徴的デザインコードを再解釈し、ポケットウォッチとして大胆に再構築した全8モデルを展開する。
今回のプロジェクトは、ラグジュアリーウォッチ、ファッションアクセサリー、カルチャーの境界線を横断する試みとして、多くのウォッチコレクターの注目を集めている。特に、“腕時計を腕から解放する”という発想は、近年のラグジュアリー市場で進むジュエリー化やジェンダーレス化、そして時計をアクセサリーとして楽しむ新たな価値観とも重なるものだ。
Summary
- オーデマ ピゲとスウォッチが新コレクション「Royal Pop」を発表
- 「ロイヤル オーク」を再解釈したポケットウォッチ型全8モデルを展開
- 価格は5万7200円〜6万1600円(税込)に設定
- 発売日は2026年5月16日、一部スウォッチストア限定販売
- オンライン販売は行われない予定
- 新型手巻き「SISTEM51」ムーブメントを搭載
- オーデマ ピゲは収益100%を時計製造技術継承支援へ寄付
発売は5月16日、価格は5万7200円から
まず気になる発売情報だが、「Royal Pop」は2026年5月16日(現地時間)より、一部の「スウォッチ」店舗限定で販売される予定となっている。現時点ではオンライン販売は予定されておらず、店頭販売のみでの展開となる見込みだ。
価格はモデルによって異なり、「Lépine(レピーヌ)」仕様の6モデルが400ドル(日本価格:5万7200円/税込)、「Savonnette(サヴォネット)」仕様の2モデルが420ドル(日本価格:6万1600円/税込)に設定されている。
また、購入制限として「1人につき、1日1店舗で1本まで」というルールも導入予定。「MoonSwatch」発売時のような長蛇の列や即完売を予想する声も早くから上がっている。
米国では、ニューヨークのソーホー店およびタイムズスクエア店を含む21店舗で販売予定。
Royal Popとは?:腕時計を“身につけるオブジェ”へ再定義
今回発売される「Royal Pop」は、1972年に誕生した「ロイヤル オーク」と、1980年代の「Swatch POP」からインスピレーションを得たコレクションである。
最大の特徴は、従来の腕時計というフォーマットから離れたという要素だ。全モデルには高品質カーフスキン製ランヤードを採用し、首から下げたり、バッグチャームとして使用したり、ポケットに入れたりと、多様なスタイリングが可能となっている。さらに、取り外し可能なスタンドを使えばデスクウォッチとしても使用できる。
また、時計ヘッドはケースバックをクリップへ差し込む構造となっており、着脱時には独特の“カチカチ”という音が鳴る。この音は「Royal Pop」の“アコースティック・シグネチャー”として設計されたものだという。
全8モデルを展開、モデル名は“8”がテーマ
コレクションは、それぞれ異なるカラーリングと個性を持つ全8モデルで構成される。モデル名は、異なる言語における「8」を意味する言葉から名付けられており、「ロイヤル オーク」の八角形ベゼルへのオマージュとなる。
オットー ロッソ(OTTO ROSSO)
チェリーレッドとピンクを組み合わせたモデル。ピンクのタペストリー文字盤に、チェリーレッドの八角形ベゼルを採用。ポップアート的色彩感覚が最も強く表現された1本だ。
ユイット ブラン(HUIT BLANC)
ホワイトケースに、8色のカラフルな六角ビスを配置したモデル。今回のコレクションの中でも、最も“POP Swatch”的な遊び心を感じさせる。

グリーン エイト(GREEN EIGHT)
グリーン単色で統一されたモデル。ライトグリーンのビスやクラウンを組み合わせ、モノクロームながら立体感のある仕上がりとなっている。
ブラウエ アハト(BLAUE ACHT)
ライムグリーンとライトブルーを組み合わせたモデル。パステルトーンながら、強いコントラストによって存在感を放つカラーリングが特徴だ。

オレンジ ハチ(ORENJI HACHI)
ネイビーケースにオレンジのビスとステッチを組み合わせたモデル。全8モデルの中でも比較的スポーティかつメンズライクな印象を持つ。
オチョ ネグロ(OCHO NEGRO)
ブラック文字盤にホワイトベゼルを組み合わせたモノトーン仕様。最も“Royal Oak”らしい高級感を残したモデルとして、コレクター人気も高まりそうだ。
ラン バー(LAN BA)
ブルーを基調とした「Savonnette(サヴォネット)」仕様モデル。6時位置にライトブルーのスモールセコンドを搭載している。
オーティージー ロズ(OTG ROZ)
イエローベゼル、ピンクケース、ティール文字盤を組み合わせた最も大胆なモデル。ポップアート色が強く、ファッションアクセサリーとしての側面を象徴している。こちらも「Savonnette」仕様となる。
“Lépine”と“Savonnette”の2構造を採用
また、「Royal Pop」では、伝統的なポケットウォッチ構造である「Lépine(レピーヌ)」と「Savonnette(サヴォネット)」の2タイプを展開する。
「Lépine」は12時位置にリューズを配置したクラシック仕様で、時刻表示は長針と短針のみ。一方、「Savonnette」は3時位置リューズと、6時位置のスモールセコンドを特徴としている。
手巻きSISTEM51を搭載:90時間パワーリザーブも
全モデルには、スウォッチ独自の機械式ムーブメント「SISTEM51」を搭載。今回は新たに手巻き仕様へアップデートされ、15件の有効特許技術を組み込んだ仕様となっている。
90時間パワーリザーブに加え、耐磁性「Nivachron™」ヒゲゼンマイや、レーザーによる精密調整技術を備える。さらに、ケースバックからムーブメントの一部を視認できる設計となっている。
さらに、香箱内部がゴールドに変化すると“フル巻き上げ状態”を示すギミックも搭載されている。


手巻き仕様へ進化した「SISTEM51」
ムーブメントには、スウォッチ独自の機械式ムーブメント「SISTEM51」を搭載。今回は新たに手巻き仕様へアップデートされ、15件の有効特許技術を採用している。90時間以上のパワーリザーブに加え、「Nivachron™」製ヒゲゼンマイによる耐磁性能を備えるほか、レーザーによる工場精密調整も導入されている。
針とインデックスには「Super-LumiNova® Grade A」を採用し、夜間視認性にも配慮した仕様となっている。
収益は時計製造技術継承支援へ
今回のプロジェクトでは、オーデマ ピゲが収益の100%を、時計製造におけるサヴォアフェール継承支援へ充当すると発表している。支援対象には、希少技術の保存や若手時計職人育成などが含まれ、時計産業の未来に向けた社会的メッセージも打ち出している。
オーデマ ピゲCEOのイラリア・レスタ(Ilaria Resta)は、今回の協業について次のようにコメントしている。
「このコラボレーションを行った理由は、それがもたらす喜びと大胆さにあります。大胆さは、しばしばイノベーションや新しいアイデアの出発点となるからです。そして、若い世代を含むより幅広い人々に、機械式時計の魅力を新しい形で体験してもらう機会になると考えています。」
賛否両論を呼ぶ「Royal Pop」
この「Royal Pop」は、近年スウォッチが推し進めてきた、“ラグジュアリーウォッチの再文脈化”戦略の延長線上に位置付けられるプロジェクトと言える。
スウォッチは2022年、「オメガ(Omega)」との「MoonSwatch」を発表。「スピードマスター(Speedmaster)」をバイオセラミック素材と数百ドル台の価格帯で再解釈した同プロジェクトは、時計業界の枠を超えた社会現象となった。発売初日には世界各地で長蛇の列が発生し、二次流通市場では価格が急騰。高級時計に馴染みのなかった若年層やファッション層を、オートオルロジュリーの世界へ引き込む契機となった。
続く2023年には、「ブランパン(Blancpain)」との「Bioceramic Scuba Fifty Fathoms」を発表。ダイバーズウォッチの歴史的名作「フィフティ ファゾムス(Fifty Fathoms)」を、より軽やかでポップな文脈へ転換した。今回の「Royal Pop」は、その流れをさらに推し進める最新章とも言える存在である。
一方で、今回の協業相手であるオーデマ ピゲは、高級ステンレススティール・スポーツウォッチ「ロイヤル オーク」を擁する、時計業界でも特に高い希少性とコレクター価値を誇るメゾンとして知られる。1972年にジェラルド・ジェンタ(Gérald Genta)が手掛けた「ロイヤル オーク」は、“ラグジュアリースポーツウォッチ”という概念そのものを定義した歴史的モデルでもある。
それだけに、今回のコラボレーションは時計業界内でも大きな議論を呼んでいる。ラグジュアリーの民主化として歓迎する声がある一方で、「ブランドの希少性を損なうのではないか」という懸念も浮上している。
しかし興味深いのは、スウォッチが“廉価版ラグジュアリー”を生み出しているわけではない点だ。
例えば、「MoonSwatch」では宇宙開発、「Bioceramic Scuba Fifty Fathoms」ではダイバーズウォッチ文化、そして今回の「Royal Pop」では、1980年代の「POP Swatch」と19世紀のポケットウォッチ文化を接続している。つまり、価格戦略というよりも、“時計文化そのものを再編集するプロジェクト”として展開しているのである。
また、「Royal Pop」が腕時計ではなく、ネックレスやバッグチャームとしても使用可能な“身につけるオブジェ”として設計された点も新しい。ソーシャルメディア上では、ラブブ(Labubu)に続く新たなバッグアクセサリーとして、「エルメス(Hermès)」の「バーキン(Birkin)」に「Royal Pop」を合わせるスタイリングが、新たなステータスシンボルになるのではないかという声も上がり始めている。
近年のファッション市場では、時計は本来の“時間を確認する道具”から、自己表現やスタイリングの一部へと役割を変えつつある。「Royal Pop」は、そうした価値観の変化を強く映し出すプロジェクトと言えるだろう。
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