イタリアのラグジュアリーブランド「プラダ(Prada)」と、商業宇宙開発企業の「アクシオム・スペース(Axiom Space)」は、このたび、NASAのアルテミス計画に向けて共同開発を進める次世代宇宙服プロジェクトの新たな成果として、「液体冷却・換気ガーメント(Liquid Cooling and Ventilation Garment/LCVG)」を公開した。
LCVGは、アクシオム船外活動用モビリティユニット(AxEMU)宇宙服の内部に着用される高機能インナーウェアであり、宇宙飛行士の体温管理や呼吸環境の維持を担う重要なシステムである。両社による協業は2024年に発表されたAxEMU宇宙服の外層開発に続くもので、今回の発表はプロジェクトの新たな段階を示すものとなる。
Summary
- プラダとアクシオム・スペースは、月面探査用宇宙服AxEMU向けのLCVG(液体冷却・換気ガーメント)を公開
- LCVGは宇宙飛行士の体温管理や換気、呼吸環境の維持を担う高性能インナーウェアとして開発された
- プラダはエンジニアリングニット技術、先進素材、デザインおよび3Dモデリングの知見を提供
- ガーメントは最大8時間の船外活動に対応し、完全冗長化された冷却回路を備える
- 今回の発表は、2024年に公開されたAxEMU宇宙服の外層開発に続く、両社の協業の新たなマイルストーンとなる
月面帰還を支える宇宙服開発
アクシオム・スペースはNASAのアルテミス計画において、月面探査用宇宙服の開発を担当している。アルテミス計画は、人類を再び月面へ送り返すことを目的としたプロジェクトであり、1972年のアポロ17号以来となる有人月面着陸を実現する計画だ。
2024年に公開されたAxEMUでは、プラダがデザイン開発や素材選定、製品開発の分野で協力し、月面南極地域における極端な温度変化や微小隕石環境に耐えうる宇宙服外層の開発を支援した。
今回発表されたLCVGは、その協業をさらに深化させたものであり、宇宙服の外側から宇宙飛行士の身体に最も近いレイヤーへと開発領域が広がったものとなる。
プラダの技術を宇宙開発へ応用
今回のLCVGの開発では、プラダが長年培ってきたエンジニアリングニット技術や高機能素材に関する知見が活用された。ガーメントは高度な3Dモデリング技術を用いて設計されており、最大8時間に及ぶ船外活動に対応。冷却機能と換気機能を維持しながら、宇宙飛行士の快適性や可動性の向上を目指している。
また、長期間のミッションにおいて繰り返し使用できるよう、特殊繊維の選定や調達にもプラダの素材開発ノウハウが活かされたという。
宇宙飛行士の生命を支える重要装備
宇宙飛行士が船外活動を行う際、身体は大量の代謝熱を発生させる。LCVGは身体の主要な筋肉群に沿って配置されたチューブ内を冷水が循環する構造を採用し、発生した熱を吸収して生命維持システムへと送る。
さらに、従来型の冷却ウェアにはない完全冗長化された冷却回路を搭載。メイン回路に障害が発生した場合でもバックアップシステムが作動し、冷却機能を維持できる設計となっている。
加えて、LCVGには換気機能も組み込まれている。新鮮な酸素を宇宙飛行士の顔周辺へ供給するとともに、呼気によって発生した二酸化炭素を除去し、生命維持システム内で再循環させる仕組みだ。
アクシオム・スペースによると、月面での活動においてLCVGは宇宙飛行士と過酷な宇宙環境との間を隔てる数少ない装備の一つとなる。


アクシオム・スペースのCEO兼社長であるジョナサン・サーテイン(Dr. Jonathan Cirtain)は今回の発表に際し、次のように述べている。
「宇宙探査の未来は、単独の企業や組織だけで築かれるものではなく、プラダとのパートナーシップはそのことを証明しています。航空宇宙工学の専門知識とラグジュアリー分野におけるクラフツマンシップ、そして先進的な製品開発の知見を融合させることで、私たちはどちらか一方の企業だけでは実現できなかったガーメントを開発しました。まさにこのような異業種間の発想こそが、人類宇宙飛行の次の時代を形作ることになるでしょう。」
また、プラダ・グループのチーフ・マーケティング・オフィサー兼サステナビリティ責任者であるロレンツォ・ベルテッリ(Lorenzo Bertelli)も次のようにコメント。
「AxEMUを発表した際、私たちはプラダとアクシオム・スペースの協業が、その最初のマイルストーンを超えて継続していくことを表明しました。本日、人類の月面帰還を前に、アクシオム・スペースの先駆的な専門知識と、プラダが持つデザイン、パターンメイキング、先進素材に関するノウハウを融合させて生まれた新たな成果を発表できることを誇りに思います。今後もアクシオム・スペースとの協業を継続し、ともに限界を押し広げ、新たなフロンティアを探求していくことを楽しみにしています。」
さらに、アクシオム・スペースの宇宙機開発担当シニア・バイスプレジデントであるラッセル・ラルストン(Russell Ralston)は、「宇宙飛行士が宇宙船の外で過ごすすべての時間において、LCVGは彼らの安全を守るために機能しています。このガーメントは熱環境を管理し、呼吸をサポートし、さらに宇宙飛行士が極限まで身体を酷使する状況下でもその役割を果たします。プラダとともに進めてきた開発によって、その性能は私たちだけでは到達できなかったレベルにまで高められました」と説明している。
ファッションと宇宙産業の新たな接点
近年、ラグジュアリーブランドによる宇宙関連プロジェクトへの参画事例は増えつつあるが、宇宙飛行士の生命維持に直接関わる装備開発へ本格的に関与するケースは依然として少ない。
今回のLCVGは、プラダが培ってきた素材研究や高度な製造技術、そしてデザイン開発力が、宇宙開発という極限環境下のプロジェクトで実用化された事例として注目される。
月面探査が現実味を帯びる中、ファッションと航空宇宙産業の垣根を越えた協業は、今後の宇宙開発における新たなモデルケースとなるだろう。
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