ヴァレンティノ(Valentino)、サイ トゥオンブリーの邸宅で2026年プレフォール広告キャンペーンを発表

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ローマ発のラグジュアリーメゾン「メゾン ヴァレンティノ(Maison Valentino)」は、クリエイティブ ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)による2026年プレフォールコレクションの広告キャンペーンを公開した。

撮影の舞台となったのは、現代美術の巨匠サイ トゥオンブリー(Cy Twombly)が30年以上にわたり創作の聖域とした、イタリア中部バッサーノ イン テヴェリーナ(Bassano in Teverina)の邸宅。ブランドアンバサダーを務めるソンバー(Sombr)も出演している。

トゥオンブリーが選んだ、時間を抱える場所

トゥオンブリーがこのパラッツォを手に入れたのは1975年。美術収集家ジョルジオ フランケッティ(Giorgio Franchetti)の助言が縁となった。以降、トゥオンブリーは都会の喧騒を離れ、多孔質の石灰岩に囲まれたこの場所で、ごく限られた友人や協力者だけに扉を開きながら、禁欲的とも形容される質素な日々を送った。彼の代表作の数々が、ここで静かに形をなしていったのである。

今日、このパラッツォは芸術分野における文化発信の促進を目的に設立された信託団体、アイリス財団(Iris Foundation)の本拠地となっている。建築そのものに織り込まれたトゥオンブリーの気配は、いまもなお生き続けている。

1968年のヴォーグから続く、まなざしの系譜

同キャンペーンの背景には、メゾン ヴァレンティノの歴史に深く刻まれた一枚の写真がある。1968年、写真家ヘンリー クラーク(Henry Clarke)はUS版『ヴォーグ(Vogue)』のため、トゥオンブリーとパートナーのタチアナ フランケッティ(Tatiana Franchetti)が暮らしたローマのアパートで、ヴァレンティノ ガラヴァーニ(Valentino Garavani)の白を基調としたコレクションを撮影した。

半世紀以上の時を経て、舞台はトゥオンブリーのもうひとつの住まいへと移された。1968年のあの一枚をそのまま再現することが目的ではない。むしろ、当時メゾンとアーティストのあいだに流れていた感性を、現在の視点で改めて呼び起こす試みだ。長い時間の隔たりと、それでも断たれずに続いてきた繋がり。その両方を一度のビジュアルに織り込む手つきこそが、ヴァレンティノらしい語り口といえる。

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静止から揺らぎへ ── 身体と空間の関係を更新する

1968年のビジュアルでは、白いドレスを纏った人物が空間の幾何学に整然と組み込まれていた。ファッションが建築の安定性に寄り添い、規律として機能する構図である。

2026年プレフォールキャンペーンが提示するのは、その対極にある身体だ。ありのままの髪、定まらない視線、揺れるファブリックが空間に亀裂を入れ、解き放たれた色彩がかつての統一性を打ち砕く。被写体は静止することを拒み、空間を通り抜け、乱し、再び動き始める。それは、もはや空間に整然と佇む存在ではなく、人の気配が残る環境そのものに疑問を投げかける身体である。

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キャンペーンビデオが描く、説明を必要としない主体

キャンペーンビデオは、こうした身体と空間の関係性を、存在・記憶・動きが絶えず絡み合う連続体として映像化する。時間は均質ではなく、複数の速度で展開し、それぞれ異なる軌跡を描く。映像内で交わされる対話は親密で繊細、どこか幻想的な響きを帯びる。

映像のなかで連なるのは、ためらい、逸脱、立ち止まりといった微細な動作だ。そこから浮かび上がるのは、自分の身振りにふと感じるかすかな違和感 ── 自分の動きと自分自身がぴったり重ならない感覚である。対話はその違和感を埋めようとはせず、そのまま受け入れる。アイデンティティを組み立て直すのではなく、緩やかにほどいていく行為。自己を説明する義務から解き放たれた主体は、ひとつの輪郭に収まることをやめ、複数の表情が同時に立ち現れる場へと開かれていく。

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ミケーレがヴァレンティノで一貫して描いてきたのは、過去の記憶と現在の感性が呼応し合う場としてのファッションである。トゥオンブリーのパラッツォで撮影された同キャンペーンは、その思想がもっとも明快なかたちで立ち現れた一作となっている。

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