7月8日(現地時間)、レバノン発のクチュールメゾン「エリー サーブ(ELIE SAAB)」は、パリ・オートクチュールウィークで2026-27年秋冬オートクチュールコレクション「The Ball of Untamed Dreams」を発表した。
今季の舞台は、現実と幻想の境界が溶け合う夜の仮面舞踏会である。影のなかを行き交う謎めいた人影、ランプの光を受けて浮かび上がる仮面、そして角を曲がるたびに現れる新たな姿。エリー サーブは、シュルレアリスムの視覚言語とメゾンを象徴する華麗なクチュールを重ね合わせ、人間の内側に潜む多面的な自己を描き出した。


Courtesy of Elie Saab
Summary
- エリー サーブが、超現実的な仮面舞踏会をテーマにした2026-27年秋冬オートクチュールコレクションを発表
- オパール色のオーガンザやマゼンタのシルクを通じ、ルネ・マグリットやサルバドール・ダリを思わせる幻想的な世界を表現
- 動きや光によって色調を変える生地が、カラーリリー、夕暮れの空、真夜中の白鳥を思わせる有機的なフォルムへと変化
- パステルカラーのゴッデスドレスから、ワインレッドのベルベットガウン、黒い翼のようなコラムドレスまで、多様な女性像を提示
- 女性と男性の双方に向けたタキシードや、彫刻的なヘッドピース、異世界的な仮面が舞踏会の演劇性を強調
- フィナーレには、シャンパン、クリスタル、ライトゴールドの輝きに包まれたブライダルルックが登場
シュルレアリスムが導く、変容の物語
コレクションの着想源となったのは、現実の論理を超えて、夢や無意識の世界を描いたシュルレアリスムである。
真珠を散りばめた透けるようなオパールカラーのオーガンザは、空に浮かぶルネ・マグリット(René Magritte)の雲を思わせ、マゼンタのシルクで仕立てられた官能的なフィッシュテールドレスは、サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)の薔薇を想起させる。
生地は身体に沿ってドレープされ、ねじられ、花や鳥、空のような有機的なフォルムを形成する。カラーリリーの花弁、夕暮れの空、真夜中を舞う白鳥。自然界のイメージをまとったモデルたちは、ランウェイを歩くたびに別の存在へと変容していく。
色彩もまた、固定されたものではない。光や動きを受けて、ライラックはシルバーへ、深いブルーは淡いブラッシュピンクへと表情を変える。プレスリリースで「マーキュリアル」と表現された移ろいやすい色彩が、夢のなかのように不確かな世界をつくり上げた。



儚さと威厳が共存するシルエット
シルエットは、幻想的で軽やかなものから、圧倒的な存在感を放つものまで幅広い。
淡いパステルカラーのゴッデスドレスには、エリー サーブが長年追求してきた流麗なエレガンスが宿る。柔らかな生地が身体の動きに合わせて揺れ、モデルを霞や光のように包み込む。
対照的に、ワインレッドのベルベットで仕立てられたボールガウンや、黒い翼を広げたようなコラムドレスは、より力強く威厳に満ちている。儚さと強さ、光と闇、柔らかさと鋭さ。相反する要素を並置することで、一人の人間のなかに存在する複数の人格や感情を浮かび上がらせた。
装飾を施したコルセットや長く引くドラマチックなトレーンも、今季を特徴づける要素である。身体の曲線を際立たせながらも、着る者を保護する鎧のような強さを与え、エリー サーブが描く女性性を、単なる繊細さではなく、自らの存在を堂々と示す力として表現した。



タキシードが示す、曖昧なアイデンティティ
華やかなイブニングドレスの合間には、女性と男性の双方に向けて仕立てられたシャープなタキシードが登場した。
端正な白いシャツ、鋭いショルダーライン、黒のコラムやケープ。抑制されたテーラリングは、装飾的なガウンとは異なる冷ややかな緊張感をもたらす。
夜の仮面舞踏会では、社会的な肩書きや日常の役割は一時的に失われ、何者にでもなり得る。男性性と女性性、隠すことと露わにすること、現実と虚構。タキシードは、そうした境界が曖昧になる夜の精神を象徴している。
深いバーガンディのベルベットや黒を基調としたルックは、幻想的な世界に官能的な重みを加えた。軽やかなオーガンザや煌めく刺繍だけに頼らず、重厚な素材を織り交ぜることで、コレクション全体に奥行きと緊張感を与えている。



仮面とヘッドピースが完成させる登場人物
今季の物語を決定づけたのが、精緻に造形されたヘッドピースと異世界的な仮面である。
羽根や花弁を思わせる立体的なフォルムが頭上を飾り、赤や黒の仮面が顔の一部を覆う。衣服と一体化したアクセサリーは、モデルを単にドレスを着た人物ではなく、舞踏会に現れた架空の登場人物へと変えていく。
仮面は、顔を隠す一方で、普段は表に出ることのない別の人格を解放するものでもある。匿名性を与えながら、内面を露わにする。その矛盾した性質が、「The Ball of Untamed Dreams」というテーマの核心を担っている。
エリー サーブが得意とする華やかなグラマーは、ここではレッドカーペットのための美しさを超え、演劇的な幻想の一部として提示された。


花嫁、そして舞踏会のクレッシェンド
舞踏会がクライマックスを迎えると、ブライダルルックが姿を現す。
ボディスは、溶けた光を固めたようなイリデッセントの曲線で象られ、スカートにはシャンパン、クリスタル、ライトゴールドの輝きが幾層にも重ねられた。光を受けるたびに異なる色を映し出すその姿は、現実の花嫁であると同時に、夢のなかに現れた幻影のようでもある。
メゾンを象徴する豪華な刺繍とドラマチックなボリュームを集約しながら、単なる華麗さではなく、どこか謎めいた余韻を残すフィナーレとなった。

エリー サーブ2026-27年秋冬オートクチュールコレクションの全ルックは、以下のギャラリーから。
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