7月7日(現地時間)、フランス発のクチュールメゾン「アレクシス マビーユ(Alexis Mabille)」は、2026-27年秋冬オートクチュールコレクション「Dual(デュアル)」をパリ・オートクチュール・ウィークで発表した。
今シーズンの出発点となったのは、「なぜ服は静止したままでなければならないのか」という問いである。服を一枚の完成されたイメージとしてではなく、動き、開き、反転し、内側を見せることで変化していく存在として捉えること。アレクシス マビーユは、「Dual」を通して、ひとつのシルエットの中に潜む二面性と、着る人自身の多面性を重ね合わせた。
Summary
- アレクシス マビーユが2026-27年秋冬オートクチュールコレクション「Dual」を発表
- テーマは、ひとつの服が内包する二面性とメタモルフォーゼ
- 開き、反転、裏返し、重なりによって、同じ構造の中から異なる表情が現れる構成
- 黒、シルバー、ゴールドを軸に、ターコイズ、ピンク、ロイヤルブルー、アイボリーなどが裏地や装飾から浮かび上がる
- ミニマルと過剰、厳格さと官能性、闇と光といった相反する要素を、クチュールの技術によってひとつの服の中に共存させた
服に内包された、もうひとつの物語
コレクションノートには、「もしすべての創造物が、それ自身の変身の可能性を内包していたとしたら?」という問いが記されている。マビーユが描いたのは、服が固定された形で完結するのではなく、身にまとう人の動きや所作によって、別の表情を現すという考え方である。
それぞれのシルエットは、ひとつの物語だけを語らない。ケープが開かれ、裏地が現れ、スリットから異なる素材がのぞき、レースが肌やサテンの上に重なる。デザインと構造は同じままでありながら、ボリューム、質感、光の受け止め方が変化することで、服の印象は大きく変わっていく。
ここでの変身は、劇的な衣装替えではない。最初から内側に折りたたまれていたもうひとつの姿が、ある瞬間に静かに開示されるような感覚である。カット、裏地、留め具、重なりといったクチュールの基本的な技法を用いながら、マビーユは服を「見るもの」から「展開するもの」へと変えてみせた。
黒から始まる、抑制された序章
ショーは、黒を基調とした静かな緊張感の中で幕を開けた。深いブルーのカーペットの上を進むモデルたちは、髪を黒いフードで覆い、背後には全身黒の黒衣のような存在が寄り添う。髪という個性を示す要素を隠すことで、視線はモデルの個人性ではなく、服そのものの変化へと向けられる。
序盤には、黒のベルベットやサテンを用いたロングドレスが登場した。ミニマルなコラムシルエットは、一見すると静謐で禁欲的だが、裾やスリットからシルバーの輝きがのぞき、内側に別の表情を抱えていることを示す。続くリキッドシルバーやゴールドのドレープは、光を受けるたびに質感を変え、服が動くことで初めて完成する存在であることを印象づけた。

Courtesy of Alexis Mabille


内側から立ち上がる色彩
「Dual」における色彩は、外側から装飾的に加えられるのではなく、しばしば内側から現れる。黒のコートドレスの合わせ目からターコイズがのぞき、その予告は、ラグーンのようなサテンの裏地を持つターコイズ×ゴールドのフローラルブロケードへとつながっていく。裏地は脇役ではなく、服の第二の性格としての顔を見せる。
ローズピンクのラメ、サフランのようなゴールド、ミッドナイトブルー、ロイヤルブルーもまた、単なるカラーパレットではない。それぞれが、服の内側に潜む感情を表すもう一つの顔なのだ。とりわけピンクは、黒やブロケード、レースと組み合わされることで、甘さだけではない強さを帯びる。巨大なサテンのボウを伴う刺繍ドレスや、黒レースを重ねたピンクのミニケープは、ロマンティックでありながら、どこか儀式的な厳かさを持っていた。




レースとケープがつくる二重性
中盤以降、コレクションはより明確に「覆うこと」と「見せること」の関係へと踏み込んでいく。黒いレースは、肌を隠しながら同時に透かし、サテンの表面に別の奥行きを与える。ハイネックのレーストップに重ねた黒のサテンガウン、アイボリーの構築的なドレスに走る繊細なレースのライン、ブルーのドレスを覆う白いレースのオーバーレイなど、同じ素材が慎ましさと官能性の両方を担っている。
メゾンのシグネチャーでもあるケープも、今季は重要な役割を果たした。身体を包み込む保護的な存在でありながら、開かれることで内側の色彩や装飾を見せる装置でもある。ターコイズのサテン、ピンクのパネル、黒の内側からのぞく光沢素材は、服の内部に隠されたもうひとつの感情を可視化する。マビーユは、ケープ、スリット、重なり、開閉といったクラシックなクチュールの手法を用いながら、現代的な「変化する服」の感覚をつくり出している。


相反するものの和解
ノートが記す通り、二面性は服を超えて、それを着る個人へと及ぶ。パワフルであると同時に繊細、ミニマルであると同時に過剰、厳格であると同時に官能的、闇であると同時に光。ショーの終盤は、その和解をルックごとに上演していく。肩を切り欠いたロイヤルブルーのサテンガウンは、ブルーのフローラルレースを纏った姿で回帰し、威厳は夢想へと和らぐ。黒褐色のスクエアネックのボールガウンは、スカートを白黒のラッフルの段々へと爆発させて再登場し、禁欲は一瞬で高揚へと反転する。
ストラップレスのボールガウン、オペラグローブ、ヴィクトリアンなハイネック、ブロケードと、イブニングの語彙はあくまで古典的だ。しかし対になる構成が、それを絶えず運動の中に置く。レースのヨークを持つミッドナイトブルーのブロケードが宮廷的に見えた次の瞬間、黒レースを帯状に走らせたアイボリーサテンのガウンがそのネガとして現れる。黒いサテンのコクーントップが細いベルベットのコラムへ溶けていく頃には、観る側の目は「最初の服の内側に隠れた第二の服」を探すように訓練されている。




「変化」というクチュールの静かな贅沢
フィナーレはこのアイデアを結晶させる。白いストラップレスのコルセットから、ハンカチーフのような白いラッフルが幾層にも噴き出し、その下には細い黒のレッグライン――まるで舞踏会とアトリエを、ひとつの服が同時に抱えているよう。
アレクシス マビーユがルックの列の中でお辞儀をしたとき、ブルーのカーペットは、それぞれのドレスが「もうひとりの自分」の気配を連れた、対の肖像画の回廊のように映った。

建築的なスケールのスペクタクルが目立つクチュールウィークにあって、「Dual」はより親密なドラマを提案する。それは、着る人が「今夜どちらの自分を見せるか」を選ぶ瞬間のドラマだ。マビーユのテーラリングの精度と、儀式的なイブニングへの崇拝に根ざしながら、真の主題は個人の多面性にある。この服たちは「あなたは誰か」とは問わない。「今夜のあなたはどちらか」と問うのだ。
アレクシス マビーユ2026-27年秋冬オートクチュールコレクションの全ルックは、以下のギャラリーから。
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