ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)2026年秋オートクチュール:水と火が交差する「Sea of Fire INFERNO」

ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)2026年秋オートクチュール

7月8日(現地時間)、日本発のクチュールメゾン「ユイマ ナカザト(YUIMA NAKAZATO)」は、パリ・オートクチュールウィークで2026年秋クチュールコレクション「Sea of Fire INFERNO」を発表した。

今季は、メゾンにとって大きな節目でもある。2016年7月にパリ・オートクチュールウィークの公式カレンダーへ初参加してから10周年を迎え、現在も公式カレンダーに名を連ねる唯一の日本発メゾンとして、独自のクチュール表現を追求し続けている。

新作の核となったのは、「水」と「火」という相反する二つの存在だ。火は光と温もりを与える一方、あらゆるものを焼き尽くす。水は生命を支えながら、ときに災害となって人間を脅かす。生存に不可欠でありながら、同時に畏怖の対象でもある二つの力を、中里唯馬は対立するものではなく、互いを補い合う一つの存在として捉えた。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

Courtesy of Yuima Nakazato

Summary

  • ユイマ ナカザトが、2026年秋クチュールコレクション「Sea of Fire INFERNO」をパリで発表
  • 公式カレンダーへの初参加から10周年を迎えた節目のシーズン
  • カナリア諸島テネリフェ島の黒い溶岩と海から着想し、水と火の二面性を表現
  • 能・狂言の衣装替え「物着」に着想した演出で、同じ構造の衣服が青から赤へと変化
  • セラミックによる「Fragile Armor」を通じ、強さと脆さ、守りと闘争の関係を問い直した
  • エプソン、YKK、村田製作所との協業により、アップサイクル素材やデジタル技術をクチュールへ融合

黒い溶岩と海から生まれた「Sea of Fire」

コレクションの出発点となったのは、中里が訪れたカナリア諸島テネリフェ島だ。

大西洋に面した黒い溶岩の崖に立った中里は、強い陽光さえ吸い込むような暗い海を目にした。夜、同じ場所へ戻ると、月明かりに照らされた波は、まるで黒い炎のようにうねっていたという。

本来は対極にあるはずの水と火。しかし光の変化によって、海が炎のようにも見える。その体験から、二つは完全に切り離された存在ではなく、表裏一体の力なのではないかという発想が生まれた。タイトルの「Sea of Fire INFERNO」は、そうした境界の揺らぎを象徴している。

蝋燭の炎が低く揺れる暗い会場で、ショーは海を思わせる藍やセルリアンブルーから始まった。細身のコラムドレスやローブ、ドレープを描く衣服には、中里自身がテネリフェ島沖で撮影した海の写真がプリントされている。

コレクションが進むにつれ、その青は次第にオレンジや赤へと変化し、静かな海面は燃え上がる炎へと姿を変えていった。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

「物着」が見せる青から赤への変容

水と火を一つの物語として見せるため、中里が着目したのが、能や狂言に伝わる衣装替えの技法「物着(ものぎ)」である。

物着とは、演者が舞台上で観客に見守られながら衣装を替え、人物の変身や時間の経過を示す演出だ。今季のショーでは、5人のパフォーマーが同じ構造を持つ衣服をまとい、青から赤へと移り変わることで、異なる表情を見せた。

この構造の根底には、着物の考え方がある。着物は長方形の布を基本としながら、身体への沿わせ方や重ね方によって多様な形を生み出す。さらに文様には、物語や祈り、象徴的な意味が込められてきた。

中里はその原理を現代のクチュールへと置き換え、同じ幾何学的な構造から、ローブ、ドレス、コルセット、鎧のようなシルエットを展開した。衣服の変化を隠すのではなく、変わっていく過程そのものを見せることで、二面性というテーマを視覚化している。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

強さと脆さを宿す「Fragile Armor」

コレクションの中心を担ったのが、メゾンが数シーズンにわたって発展させてきたセラミックドレス「Fragile Armor(フラジャイル・アーマー)」である。

小さなセラミックパーツを格子状に連ねた表面は、硬質な鎧を思わせる一方、一つひとつのパーツは壊れやすい。蝋燭の光を受けると、鱗や水面のように細かく反射し、強さと繊細さを同時に浮かび上がらせる。

本来、鎧は身体を守り、闘争に備えるためのものだ。しかし、それをあえて脆い素材で作ることで、中里は「強さとは何か」「守ることと傷つくことは両立しうるのか」と問いかける。

守るものと壊れやすいもの、攻撃性と繊細さ。相反する性質を一つの衣服に共存させた「Fragile Armor」は、今季のテーマを最も端的に表す存在となった。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

テクノロジーをクチュールの技法へ

これまでにユイマ ナカザトは、テクノロジーや環境への視点を取り入れながら、ファッションと現代美術の境界を広げてきた。

今季も、エプソンとの継続的なパートナーシップのもと、廃棄衣料を新たな素材へと生まれ変わらせるドライファイバーテクノロジーを採用。さらにYKKが協業に加わり、廃棄衣料由来の素材を活用したファスナーが制作された。

テネリフェ島で撮影された海の写真は、エプソンのデジタル捺染技術によって衣服へと転写された。青い海が赤い炎へと変化するグラフィックは、コレクション全体を貫く視覚的な軸となっている。

また、村田製作所と制作したフォトブックにはICチップが組み込まれ、スマートデバイスをかざすことで、専用サイトやコレクションフィルムへアクセスできる仕組みが採用された。衣服だけでなく、ショーの記録や鑑賞体験においても、フィジカルとデジタルの境界を越えようとする試みである。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

海が炎へと変わるフィナーレ

ショーの後半、色彩は青から琥珀、焦げたオレンジ、深紅へと移り変わった。穏やかな海として始まったコレクションは、やがて激しく燃え上がる業火へと到達する。

しかし、それは一方がもう一方に置き換わったことを意味するのではない。海と炎は初めから同じ構造のなかに存在し、光の当たり方によって異なる姿を見せていたにすぎない。

パリの公式クチュールカレンダーに登場してから10年。ユイマ ナカザトは、伝統的な手仕事と先端技術、環境への問い、そして芸術的な物語を一つのランウェイに共存させてきた。

「Sea of Fire INFERNO」は、水と火、強さと脆さ、伝統と革新といった相反する要素を切り離すのではなく、その境界を溶かしながら一つの全体へと結び直したコレクションである。

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO

ユイマ ナカザト 2026年秋オートクチュール Sea of Fire INFERNO フィナーレ

ユイマ ナカザト2026年秋クチュールコレクションの全ルックは、以下のギャラリーから。

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