共同編集:株式会社ビーツ/ワールド・モード・ホールディングス株式会社
Editor: Riri Kamata
2026年春夏シーズンのニューヨークを象徴する最新空間を通して、変化し続ける都市感覚と、新しいリテールカルチャーのあり方を読み解いていく本連載。
第1回では、「ゴハー・ワールド(Gohar World)」のポップアップ事例を通して、“内側の魅力”を持つ空間について取り上げ、第2回では、「マイモウン(Maimoun)」を通して、感性とコミュニティが交差するリテール空間の現在地を追った。
そして第3回となる今回は、ニューヨークで急速に存在感を高めるウェルネス空間にフォーカスする。「アザーシップ(Othership)」を通して、“身体を整える場所”を超え、ライフスタイルやコミュニティの一部として機能し始めた新たな空間体験を読み解いていく。
Wellness Aesthetic|ウェルネスの在り方
ウェルネスは近年急速にトレンドとして広がり、求められているものは以前と明らかに異なっている。身体を整えるための場所から、生活の一部として組み込まれる場所へと変化している。選ばれる理由は設備の種類ではなく、そこに流れる過ごし方の質とキャラクターにある。
ニューヨークでその変化を象徴する存在がサウナ、スパ施設である「アザーシップ」だ。コールドプランジとその体験全体がアザーシップならではの <ひとつの世界> として設計されているのが特徴である。訪れる動機は効果だけではなく、その時間を過ごしたいという感覚に近い。従来のスパとは異なる位置に自然と置かれている。
ウェルネスやスパ関連の店舗は年々増え続けているが、要素を揃えるだけでは差が生まれない。振る舞い方や関わり方まで含めて整えられているかどうかが印象を決める。身体への作用よりも、体験の一貫性が記憶をつくる。ブランドの輪郭が空間にそのまま現れる領域になっている。
健康の捉え方も変わってきた。個人の調整だけでなく、生活のリズムや人との関係に関わるものとして扱われ始めている。共有される時間が場所の個性を形づくり、施設はコミュニティに近い存在になる。快適さの質が問われている。
これからのウェルネスは設備の競争ではない。どのような過ごし方を想像できるかが選択基準になる。身体のための場所でありながら、判断は文化的な感覚によって行われる。ウェルネスは1つのライフスタイルへと位置づけを変えている。

Othership Williamsburg
アリ・マックウェイド・ミッチェルは、トロントを拠点に国際的に活動するインテリアデザイナーであり、インテリアデザインスタジオ フューチャースタジオ(Futurestudio)の創設者である。7名のチームを率いるミッチェルは、アザーシップがまだ構想段階にあった初期からプロジェクトに関わり、最初の拠点から現在に至るまで、その空間アイデンティティの形成を担ってきた。
アザーシップは2022年初頭にトロントで最初の拠点をオープンし、現在は同地で2店舗を展開。2024年夏にニューヨークへ進出後、短期間で2店舗目を開設し、現在は3店舗目の計画も進行中で、拠点ごとに空間規模も拡大している。

アザーシップの急速な成長は、そのコンセプトと空間設計における強度と一貫性に大きく支えられている。既視感のあるウェルネス空間の型をなぞるのではなく、動線、素材選び、香り、音、照明、スタッフの存在、そして儀式的な体験までもが統合された、完全に振り付けられた空間システムとして構築されている点が、アザーシップの際立った特徴だ。空間のあらゆる感覚レイヤーにまで行き渡るこの明確なコンセプトとインテリア言語が、その急速な拡張と強い支持につながっている。
「ここは《ひとつの世界》のように感じられる空間を目指しました。地球上のどこかとは少し違う感覚を持ちながらも、自然素材にしっかりと根ざした場所です」とミッチェル氏は語る。

ミッチェル氏がアザーシップの創業メンバーと関わり始めた当初、その構想はパンデミック下に生まれた、ごく小さく非公式な集まりに過ぎなかった。創業者の一人が自宅の裏庭にあるガレージにサウナとアイスバスを設置し、友人やコミュニティの仲間を招いていたという。当時、そこにビジネスとしての明確な意図はなかった。対話を重ねるなかで、ミッチェル氏はこの親密な儀式的体験を、恒久的な空間へと翻訳する役割としてプロジェクトに加わった。フィンランド式サウナ、韓国のチムジルバン、ローマ浴場といった入浴文化を参照しながら検討を進めるうちに、アザーシップは既存のどのカテゴリーにも当てはまらない存在であることが明らかになった。スパを作ろうとしていたわけではなく、まったく新しい〈−ソーシャル・ウェルネス−の空間〉を生み出そうとした。
素材と空間の雰囲気づくりは、この新しい空間類型を定義するための基盤となった。サウナ文化における温もりや身体的な心地よさを象徴する木材は、サウナルームの内側にとどまらず、ミッチェル氏が「サウナを空間全体に《拡張させる》」と表現するように、空間全体へと広がっている。床材には、すべての拠点で天然の川石をスライスした素材が用いられ、水の中を歩くような感覚を想起させる。こうした触覚的な素材に、抑制された照明演出が重ねられ、体験を損なうことなく、わずかな演劇性が加えられている。

各拠点は、ラウンジ、サウナ、シャワー、コールドプランジ、休憩スペースへと来訪者を導く、綿密に設計された動線を軸に構成されている。立地条件によってレイアウトは変化するものの、その根底にある体験のシークエンスは一貫している。このプロセスの中核にあるのが、クライアントとの協働だ。
「私たちは、クライアントにもほとんどデザイナーとしてテーブルについてもらいたいと考えています。」
「空間が完成した後、それを育て、担っていくのは彼ら自身—空間の《心臓》であり《魂》になる存在だからです」とミッチェル氏は語った。
ウェルネス業界が拡大を続けるなか、アザーシップは規模の大きさだけでなく、コンセプト、空間、そして儀式的体験が一体となった統合的な体験によって、確かな存在感を示している。

Futurestudio
Toronto, Canada
Interior Design Studio
2019年創立。トロントを拠点に、ウェルネス、ホスピタリティ、リテールを中心とした空間設計を手がけるインテリアデザインスタジオ。感覚的な体験と機能性の両立を重視し、素材、光、動線を丁寧に構成することで、身体的・精神的な心地よさを導く空間を創出する。スパやバスハウスといったウェルネス領域において、現代的でありながら持続性のある空間表現を追求している。
主なプロジェクト:Othership(トロント/ニューヨーク)、Umvelt(ボーズマン/モンタナ)、Trove Wellness(トロント)、Jaybird(トロント/バンクーバー/ニューヨーク)、Civil Works(トロント)他
Editor
Riri Kamata
東京生まれ。14歳で単身渡米し、ニューヨークを拠点に活動。Parsons School of Designにてプロダクトデザインを専攻し学士号を取得後、同校ファッションマーケティング学部を修了。ファッション領域では、スタイリストアシスタント、プリントデザイン、ビジュアルマーチャンダイジング、プロダクションなど多角的な経験を積む。現在はニューヨークを拠点にジュエリーレーベル「abroad」を主宰し、すべてのジュエリーを自身の手で制作している。私生活では、韓国のカルチャーやトレンド、生花(小原流)、哲学書──とりわけプラトンに親しむ。
公式サイト
https://www.abroad.nyc/
Company Profile
株式会社ビーツ
ビーツは、スペースデザインと店舗デジタルソリューションを最適化するマーケティング企業。
クリエイティビティにデータやテクノロジーを組み合わせることで、リテールという最強の顧客接点で体験できるブランドエクスペリエンスを進化させ、生活者のリアルな感動・喜び・信頼を生み出す心地よい「共感」を創出している。
公式サイト
https://www.beeats.co.jp/
ワールド・モード・ホールディングス株式会社
ファッション・ビューティー業界を専門に、人材、デジタルマーケティング、店舗代行など多様なソリューションを提供するグループ。
iDA、BRUSH、AIAD、AIAD LAB、フォーアンビション、VISUAL MERCHANDISING STUDIO、双葉通信社の7社の国内事業会社を擁し、シンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアに海外拠点を展開。各社の専門性を掛け合わせたシナジーにより、顧客の課題に応じた実効性の高いソリューションを提供している。
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