7月8日(現地時間)、フランス発のクチュールメゾン「バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、パリ・オートクチュールウィークで2026-27年秋冬オートクチュールコレクションを発表した。
メゾンにとって第55回目となる今回のクチュールは、クリエイティブ・ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が初めて手がけたクチュールコレクションにもなる。
ピッチョーリが向き合ったのは、クチュールメゾンとしてのバレンシアガを支える原則、その例外、そして真実だ。創業者クリストバル・バレンシアガが築いた造形思想を表面的に再現するのではなく、その本質を現代の技術や身体感覚を通して捉え直し、「今のバレンシアガ・クチュール」を提示した。

Courtesy of Balenciaga
Summary
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バレンシアガの第55回オートクチュールコレクションであり、ピエールパオロ・ピッチョーリが手がける初のクチュール
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クチュールをメゾンの創造や判断を方向づける「情報」と捉え、ブランドの中心に据え直した
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人物の3Dデジタルスキャンをもとに、内部に成型レザーの構造体を組み込んだカシミヤのコートとドレスを制作
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バイオエンジニアリングによるシルクの代替素材「AMSilk」と、メゾンを象徴するネオ・ガザールを採用
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フィリップ・トレーシーとの協業により、帽子と衣服の境界を曖昧にする彫刻的なフェザーのフォルムを制作
情報としてのクチュール
ピッチョーリの出発点にあるのは、クチュールの概念と本質を、現代のためにあらためて捉え直すという考えである。
同コレクションにおいて、クチュールは、メゾンがどのように行動し、社会や時代にどう応答するのかを方向づける「情報」であり、創造の方法そのものなのだ。
同時にクチュールは、実験と技術開発のための領域でもある。素材、構造、身体の関係を検証しながら、現在という時代とバレンシアガのアイデンティティを映し出すプリズムとなる。
ピッチョーリは、クチュールを再びメゾンの意味の中心に据えることで、バレンシアガという存在そのものを内側から組み立て直そうとした。
「これが私たちのコレクションであり、私たちの仕事であり、これが今のバレンシアガ・クチュールだ」——デザイナーはコレクションノートにそう記す。アトリエの人々への感謝を綴ったその文章で、彼は語る。クチュールとは、それを生きる人々によって作られるものなのだ、と。

変化は、内側から
コレクションを貫く重要な考えの一つが、「変化は内側から生まれる」というものだ。
シルエットは、外側から装飾を加えるのではなく、衣服の内部に組み込まれた構造によって建築的に形づくられている。生地の裁ち方や落ち方が、衣服の物質性だけでなく、その内側にある身体との関係や調和を決定していく。
カシミヤで仕立てられたコートとドレスは、人物を3次元デジタルスキャンすることから制作が始まった。スキャンによって記録された姿勢や身振りを一つのポーズとして抽出し、それをもとにレザーを立体的に成型。衣服の内部には、身体を包む「甲殻」のような構造体が組み込まれている。
この内側の構造によって、衣服は彫刻的なボリュームを保ちながら、見た目からは想像できないほどの軽さを実現した。
装飾もまた、内側から姿を現す。裾やラペルの内側から広がる装飾は、端正で厳格な外観に亀裂を入れるように現れ、外側の抑制と内側の豊かさを対比させている。

受け継がれる革新
バレンシアガが長年追求してきたテキスタイル・イノベーションは、新たな素材の導入によってさらに押し広げられた。
コレクションに採用された「AMSilk」は、バイオエンジニアリングによって生み出されたシルクの代替素材である。公式資料によれば、化石燃料への依存を抑え、再生可能な方法で生産される繊維であり、クモの糸に似た性質と高い強度を備えている。これは、伝統的な技術を守るだけでなく、新しい科学技術をクチュールの領域へ取り込むという、ピッチョーリの姿勢を象徴している。
一方で、メゾンを代表する素材であるガザールも「ネオ・ガザール」として再解釈された。
クリストバル・バレンシアガの作品を象徴するガザールの軽さと張りを受け継ぎながら、今季のネオ・ガザールは、衣服の表面を構成する生地であると同時に、シルエットを支える内部構造としても機能する。
軽さと剛性という相反する性質が一つの素材の中で共存し、衣服と身体の周囲に新たな空間を生み出している。
いくつかのルックは、色や素材を変えて繰り返し登場した。二度目には装飾性を削ぎ落とした黒一色のシルエットとして提示され、影のような存在へと還元される。それは観客の視線を一度リセットし、色彩や装飾の背後にある純粋な輪郭と構造を際立たせるための試みである。

フェザーが支える「不可能な軽さ」
コレクションにおいて、フェザーは軽さを表す装飾であると同時に、クチュールの可能性を象徴するメタファーとして用いられた。繊細で、ほとんど重さを感じさせない一方、一定の強度を持つフェザーの性質は、軽さと構造を両立させようとするコレクション全体の思想と重なる。
刺繍は衣服の表面に追加される装飾ではなく、シルエットを形成する構造の一部として組み込まれた。
英国出身の帽子デザイナー、フィリップ・トレーシー(Philip Treacy)との協業からは、フェザーが身体を覆い、周囲の空間にまで広がる彫刻的なフォルムが誕生した。
それらは帽子とも衣服とも断定できない形状を持ち、どこまでが身体で、どこからが衣服なのか、さらに帽子とドレスを分ける境界は本当に存在するのかを問いかけている。

クリストバル・バレンシアガの思想を現代へ
ピッチョーリは、メゾンの歴史をそのまま再現することを選ばなかった。
過去のアーカイブを固定された正解として扱うのではなく、クリストバル・バレンシアガが衣服に込めた思想や問いを、現代の身体、素材、技術を通して検証している。そこにあるのは、身体の形をどのように捉えるのか、衣服は身体とどのような関係を築くべきなのかという根源的な問いである。
クリストバルの作品に見られた、禁欲性と豊かさ、厳格さと自由、重量感と軽やかさといった二律背反は、今季のコレクションにも受け継がれている。
構築的なテーラリングは、柔らかなフルーの技法と融合し、男性服と女性服、硬さと流動性という異なる伝統の境界を溶かしていく。その中心にあるのは、徹底した軽さへの追求だ。
さらに、メゾンが長く探究してきた三次元的な造形へのこだわりは、正面から見るだけでは理解できないシルエットとなって表れた。
横や後ろへと回り込み、360度から眺めることで初めて、その構造やボリューム、身体との距離が明らかになる。そこではクチュールは、着用される衣服であると同時に、空間の中に存在する彫刻でもある。
ピッチョーリによる最初のバレンシアガ・クチュールは、創業者の造形を模倣するものではない。その思想をアトリエの手仕事、デジタル技術、バイオ素材と結びつけ、現代においてクチュールが持ち得る意味をあらためて問い直す試みである。
変化は外側から与えられるのではなく、構造から、素材から、そして制作に携わる人々の内側から生まれる。

バレンシアガ2026-27年秋冬オートクチュールコレクションの全ルックは、以下のギャラリーから。
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