6月9日(現地時間)、フランスのラグジュアリーメゾン、シャネル(Chanel)は、ファッションおよびラグジュアリー業界における循環型経済の推進を目的として、独立した新組織「ネヴォルド(NEVOLD)」を設立したと発表した。ネヴォルドは、天然繊維やレザー素材における再生と革新をテーマに掲げた、BtoB向けの循環型プラットフォームだ。
ネヴォルドの名称は、“Never Old(決して古くならない)”を由来としており、シャネルのサステナビリティ戦略の中核を担う存在として設立された。このプラットフォームを通じて、リサイクル繊維を取り入れた、高品質かつ革新的な素材の開発・商業化を進め、ファッション業界全体に広がる高品質でトレーサブルな天然原料の希少性という課題に対し、共創による長期的な解決策を提示しようとしている。
そんなネヴォルドを率いるのは、2025年1月にシャネルに加わった元パトゥ(Patou)のCEO、ソフィー・ブロカール(Sophie Brocart)だ。シャネルは、エンジニアとしてのバックグラウンドを持つブロカールについて、「サステナブル・イノベーションにおける専門性と先駆的なアプローチで知られている」と評価している。
なお、ネヴォルドは、シャネル主導により設立された、主要な天然繊維およびレザー素材におけるサーキュラリティ(循環型経済)の課題に特化した独立組織として機能していく。また、リサイクル素材を取り入れた高品質で革新的な素材の開発・商業化に向けて、ファッションおよびラグジュアリー業界、さらには繊維・レザー産業全体を対象とした大規模なソリューションの創出を加速するために、産業界および学術機関とのパートナーシップを構築していく。
すでに、同分野における実践的なソリューションを提供するスタートアップや企業が結集したエコシステムで構築されており、現在以下の3社が名を連ねている。
- シャネル発のリサイクル支援企業「ラトリエ・デ・マティエール(L’Atelier des Matières)」
- 再生糸の分野で知られる仏紡績企業「フィラチュール・デュ・パルク(Filatures du Parc)」
- フランスのレザー再生に特化した「オーセンティック・マテリアル(Authentic Material)
さらに、ケンブリッジ大学やミラノ工科大学といった学術機関とも提携を進めており、産学連携の姿勢も明確にしているという。
ネヴォルドの本質は、単なるリサイクルを超えた、製品ライフサイクル全体の再設計にある。シャネルは現時点でも、再生糸を用いたツイードや、廃棄レザーをシューズやバッグの構造部品に用いた実例があり、代表的なスリングバックパンプスのヒール部分には、従来のプラスチックではなく、再生素材が使われている。
シャネルのファッション部門プレジデントであるブリュノ・パヴロフスキー(Bruno Pavlovsky)は、Vogue Businessの取材に対して、「私たちは、最終製品に使われなかった素材や、役目を終えた素材が、その後どうなるのかという問いから始めました。シャネルでは未販売商品を破棄していませんでしたが、それらの可能性を十分に理解するためのシステムはまだなかったのです。ネヴォルドはそのシステムなのです」と説明。
さらに、「“明日から50%の素材をリサイクル品にします”ということが目的ではありません。シャネルにとって義務であるのは夢を創り続けること。ネヴォルドは、それを続けるための手段なのです。今、始めなければ、次に備えることはできないのです」と述べている。
ラグジュアリー市場における循環型モデルの再定義として、ネヴォルドの取り組みは、単なる企業戦略にとどまらず、業界全体を動かす起点となる可能性を秘めている。
同様の流れは他ブランドにも見られ、たとえばグッチ(Gucci)が2023年にイタリアに設立した「サーキュラーハブ(Circular Hub)」では、パートナー企業と共に素材の再利用や製品構造の再設計を進めており、循環型経済の実現を目指している。また、コーチ(Coach)の実験的ライン「コーチトピア(Coachtopia)」は、製品に再生素材を多用し、デザイン段階から循環型を前提とした「デザイン・フォー・サーキュラリティ(Design for Circularity)」を打ち出すなど、消費者からも好意的な反響を得ている。ネヴォルドもまた、こうした先進事例と並び、ラグジュアリー業界における次世代の素材づくりと価値観の転換を象徴する存在として、その歩みに期待が寄せられている。
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